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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の帰還記念祭 第1話『目覚め』 雪の降るような寒い朝、御坂美琴はベッドの上で目を覚ました。 今は12月、あまりの寒さにぬいぐるみを抱きしめ毛布を頭からかぶって寝ていたようだ。 今日もいつもの変わらない1日が始まる―――はずだった。 (ん~………あれ?なんだかぬいぐるみの感触が違う……?) いつも抱いて寝ているむいぐるみの感触が明らかにおかしい。 なんだか大きいし人肌のようだし良い匂いがする。 (……ふにゅ……何これすっごい心地いい……) いつもは得られない幸福感と満足感を感じ思わずギュッと抱きしめてほおずりを始める。 と――― 「へ?」 何かに頭をなでられた。いやなでられている。 ありえない出来事に美琴はそろりと毛布から顔を出した。 すると――― 「あ、起きちゃった?」 「…………え?」 なんとすぐ目の前には上条の顔があった。 そしてぬいぐるみだと思いがっちり抱きしめていたのも上条だった。 「…………………………あ、なんだ夢か。」 「いや違うから。」 意味のわからない状況を夢と決めつけたが速攻で否定された。 否定はされたがこんな状況夢以外ありえない、とりあえず夢であることは間違いないと美琴は決定づけた。 そしてボーっと目の前の上条の顔を見続けているとあることに気がついた。 上条の顔が赤い。それに目を合わせてくれないしなぜか恥ずかしそうにしている。 (何よ……目くらい合わせなさいよね。夢でも私のことはスルーしようってわけ?) 上条の態度に不満を持った美琴は抱きつく力を強める。夢の中でくらい想い人に振り向いてほしい、自分の思う通りになってほしい。 「ほらさっきみたいに頭なでなさいよ~。早く早く~!」 「あの~……御坂さん?その、上条さんとしてはその格好で抱きしめられるといろいろとまずいのですが……」 その格好……?そういえばなんだがスースーする。 毛布の中の自分の格好を見てみると…… 「……え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!?な、なんで私パジャマ着てないの!?このワイシャツは何!!?へ?え?ていうかここどこ!!?」 「うおっ!」 美琴は上条を突き飛ばし1人毛布にくるまった。 ようやくこの状況が夢でないことを理解し美琴はパニックに陥った。 「お、おちつけ御坂!大丈夫だほとんど見てないから!!」 上条は美琴が下着を見られたことでパニックになったと勘違いしていた。 美琴の格好は下着はつけているようだがワイシャツの前はとまっておらず肌が丸見えだ。 (ちょ、ちょっと待って何この状況!?え、え!?昨日は何があったっけ?ってその前に今この状況を整理したほうがいい!?) ここで美琴はパニック状態ながら頭の中でこの状況を整理する。 まずどこかわからない部屋のダブルベッドで上条と2人で寝ていた。 何やらベッドは湿っている。 そして自分の格好は下着と恐らくは上条のものであるだろうワイシャツを羽織っているだけ。 上条の格好は上は何も着ておらず下は制服のズボン。 さらに夢ではないらしい。 以上のことから考えられることは1つ。 (つ、つ、つ、つまり………………………………………やっちゃった?) その考えにたどり着いた美琴はボンッという音とともに顔をこれまでにないほど赤くした。 すると突き飛ばされた上条はベッドに座り直し気まずそうに 「あ~……御坂、ひょっとしてお前昨日のこと覚えてない?」 昨日のこと、そう言われても美琴は何も思い出せない。 「う、え、お、覚えてない……」 美琴は毛布にくるまりながら少しでも思い出そうとはしているもののパニック状態のためまともに考えられない。 「御坂……わけがわからないとは思うがとりあえず昨日のことを少しでも思い出せ。まずはそこからだ。」 「あ、う、うん……」 上条の言葉に少し落ち着きを取り戻す。 「じゃあさ……まずパーティのことは思い出せるか?」 「ッ!パーティ……そうだ……」 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 時はまず1週間さかのぼる。 美琴「ど、どうしよう…いったいどうすれば……」 この日御坂美琴は悩んでいた。 いや、この日だけではない、ここ最近ずっと悩みっぱなしだ。 その悩み事の原因はもちろんのごとく想い人、上条当麻にあった。 と、いっても前みたいにロシアから帰ってこないことに悩んでいるのではない。 帰ってきたからこそ悩んでいるのだ。 まだ上条が学園都市に帰ってきていなかったころ、美琴の調子は最悪だった。 ロシアから上条を連れ戻せなかったことを悔やみ、また上条が帰ってこないことに絶望しまともに学校生活をおくれていなかった。 本当は学校になど行きたくなかったが寮にこもっていても寮監や黒子に心配をかけてしまうのでしかたがなく学校へは行っていたが気が気ではなかった。 そしてある日美琴が学校から寮に帰ってくると何やら入り口が騒がしい。 だが一刻も早く自分の部屋に戻りたかったので気にすることなく通り過ぎようとすると目に映る1つの人影。 それがツンツン頭の少年であると認識した瞬間、何も考えず美琴は抱きついていた。 言いたいことはたくさんあったが頭の整理が追いつかずただただ泣くことしかできなかった。 そして今現在、抱きつき泣いてしまったことで大いに悩んでいるのである。 寮の玄関で起こったことだったのでもちろん寮監や多くの常盤台生に見られていた。 そのため様々な誤解を招くこととなったのも悩みの1つだが最大の悩みといえば 美琴「……今度会うときどんな顔して会えばいいのよ……」 冷静になってからとんでもないことをしたと理解し、それから1週間ずっと同じことで悩んでいた。 そのため上条に抱きついてしまってからはは上条に会わないようにするため学校が終わると一切寄り道をせず寮に直行するという生活が続いている。 そしてこの日も同じような1日を送るはずだった。が、後数歩で寮に到着するというところで ???「「見つけましたよ御坂さん!!」」 美琴「ッ!?」 誰かに呼び止められ美琴の足は停止した。この声はあの2人組に間違いない。 美琴「さ、佐天さん…初春さん……なんでここに……?」 美琴を笑顔で呼び止めたのは美琴の親友、初春飾利と佐天涙子。 『なんでここに?』と、聞きはしたが美琴には2人がここにいる理由が容易に想像できた。 初春「そんなの例の話を聞くために決まってるじゃないですか!それで御坂さんが抱きついた人はやっぱり彼氏なんですか!?」 佐天「ちょっと初春!そんな当たり前のこと聞かないでよ!それよりどこまで関係は進んでるんですか!?」 美琴「え!?ち、違うから!アイツとはそんな関係じゃないから!」 初春「いやいや嘘はいいですから!ていうかなんでいきなり抱きついたんですか?大泣きしたとかも聞きましたけど?」 必死に否定する美琴だがそんなことは関係ないとばかりに質問を続ける2人。 後少しで常盤台の寮に着く、どうやって逃げようか美琴が考えていると ???「おーみさかー久しぶりだなー。」 ふいに後ろから声をかけられた。 美琴は救世主かと思ったが現実はそう甘くない。 美琴「舞夏……確かに久しぶりね……」 声をかけてきた人物とはメイド服を着た少女土御門舞夏、この日ももちろん清掃用ロボットに乗っての登場だ。 ただ普通に話しかけてきただけなら救世主だが普通ではなかった。明らか何か企んでいるようでにやにやと笑っている。 嫌な予感しかしない。 美琴「……で、何か用があったの?」 舞夏「そうだぞーこれを渡そうと思ってなー。」 美琴「これは…?」 そう言って渡されたのは1枚の紙切れ。 なんでもない紙切れのようだが書いてあることがとんでもない。 美琴「なになに……え!?つ、土御門!?これ……マジ?」 舞夏「ああ大マジだぞー!」 美琴は驚きを隠せない。 そこに書いてある内容とは 初春「『上条当麻帰還記念!大パーティー開催!!』?……これ何なんですか?」 佐天「上条当麻って誰?」 佐天と初春も舞夏から紙をもらって興味津々に見ている。 そんな2人に舞夏は 舞夏「上条当麻ってのはみさかの大好きなやつだぞー。」 美琴「ッッッッッ!!??!?」 まさかの爆弾発言、美琴が止める間もなかった。 美琴「ちょ、土御門っ!アンタ何言ってんの!?そんなことあるわけないじゃない!」 舞夏「そんなわけあるじゃないかー。あんな人前で抱きついて、泣いて、まるで映画のようだったぞー。」 美琴が初春と佐天に隠そうと思っていたことを舞夏はいとも簡単にすべて話してしまった。 美琴はおそるおそる初春と佐天のほうを見ると2人のにやにやはMAXに達していた。これはまずいと美琴は全力で感じた。 話題をそらそうと1つ思いついたのが 美琴「いや、そんなことよりなんでアンタがこんな企画を!?」 舞夏「主催者が私の兄貴なんだー。それでできるだけ多くの人を誘ってくれって頼まれてなー。」 美琴「そ、そういやアンタの兄貴ってアイツと同じクラスだったっけ……」 美琴は冷や汗が流れるのを感じた。 普段の美琴なら“しょうがないから行く”ふりをして内心大喜びで参加するだろう。 しかし1週間前の件があるため実に行きづらい上、行けば確実に横で目を光らせている2人組にいじられまくることは間違いない。 美琴「あー…行きたいのは山々なんだけどさ…その日は用事「御坂さん!!」が……」 美琴はやっぱりきたか、と思った。 佐天と初春は尋常じゃないくらい目を輝かせている。 佐天「もちろん行きますよね!?この紙には関係ない人でも参加OKって書いてありますし私も行きますよ!」 美琴「ええ!?佐天さん行くの!!?」 佐天「え?そんなの当たり前じゃないですか。」 これは予想外、美琴の予想を遥かに上回った答えが返って来た。 すると初春がふいに思いついたようで 初春「そうだ佐天さん!白井さんや春上さんに固法先輩、それから婚后さん達も誘ってみんなで行きましょうよ!」 美琴「いや、あの……」 断ろうかとしたがもはや参加しなくてはならない雰囲気になりつつある。 それでもなんとか断れないかと頭をフル回転させる。 目の前で舞夏と佐天が何か話していることなど気にもせずに何か断る理由を作ろうと必死だ。 舞夏「詳しいことはその紙に書いてあるから読んでおいてくれー。じゃあ私は他の人にも配ってくるからまたなー。」 佐天と会話を終えた舞夏はそう言い残して清掃用ロボットに乗ったまま去っていった。 舞夏が去ったあと3人で渡された紙の内容を詳しく読んでみると…… ・日にちは12月○○日午後5時から ・上条当麻に関係ある人ない人歓迎!特に女子は大歓迎!! ・場所は第○学区の『とあるパーティー会場』にて! ・参加費無料!美味しい料理多数用意してあります! ・いろんな出し物やゲームもあります!! ・とにかく誰でもいいから誘って参加しよう! などと書かれていた。 これを見た初春と佐天はヒートアップ。 初春「参加費無料!?これは行くしかないですよ!」 佐天「それに『とあるパーティー会場』っていえば結構大きなとこだよ初春!確か1000人くらい入る会場があるって聞いたけど。」 初春「いやあるにはありますけど小さいほうの会場でやるんじゃないですか?個人のパーティーですしね。」 佐天「そう言われるとそうかー…そうだ!どうやって白井さんを説得させる?」 2人はもはや行く気満々だ。 しかし美琴も超必死である。 美琴「あ、あのさー…盛り上がってるとこ悪いんだけどやっぱり知らない人のパーティーって行きづらくない?」 初春「何言ってるんですか!上条さんにも話を聞きたいですし絶対行きますよ!」 佐天「それにさっき舞夏さんに聞いたら私達以外にも関係のない人が参加するらしいですし大丈夫ですよ。」 美琴は私が大丈夫じゃないと思った。 それからもあれこれ言い合いをしていると聞きなれた声がした。 ???「あらお姉様?今日はまだ寮に帰ってなかったのですわね。」 美琴「!!黒子!」 その声を聞き3人は舞夏の去っていった方向を見るとそこには美琴のルームメイト、白井黒子の姿があった。 美琴は今度こそ救世主が現れたと思った。 今ほど黒子が自分の元に現れて嬉しいと思ったことはないかもしれないくらい美琴は嬉しかった。 と、ふと黒子の手に目をやると何やら紙切れを持っている。 3人はすぐにそれがあの紙だとわかった。 黒子「お姉さまもこのパーティーについて聞いたのですね……」 黒子も美琴たちが舞夏からパーティーの話を聞いたのだとわかったようだ。 美琴は期待した、黒子は絶対ダメだと言ってくれると。 初春は悩んだ、どうやって黒子を説得しようかと。 佐天は考えた、最悪黒子が行かないと言い張っても美琴を連れて行く方法を。 そんな3人を前に黒子は軽く微笑んで 黒子「……この日は必ず予定を空けておいてくださいねお姉様。初春と佐天さんもですわよ。」 3人「「「……………………………………え?」」」 美琴達は自分の耳を疑った。 今黒子はなんといったのだろうか。あり得ない言葉が聞こえてきたような…… 初春「え……っと白井さん、それはどういう意味なんですか?」 黒子「もうわかっているでしょう。このパーティーに参加するという意味ですわ。」 そう言って黒子は手に持っていた紙をきれいに折りたたみ鞄にしまい込んだ。 そんな黒子に対し美琴は信じられないといった表情で 美琴「な、なんで?アンタのことだから絶対ダメって言うと思ったのになんでなの!?」 黒子「そんなの大勢の人の前でお姉様とあの殿方の関係がなんでもないということを証明し誤解を解くためですわ。」 これで希望はすべて消え去った。もう美琴になす術は残されていない。 さらに初春が追い討ちをかける。 誰かと電話したかと思うと笑顔で美琴のほうを見て 初春「御坂さん!春上さんもすごく楽しみだって言ってますよ!その期待を裏切るようなまねはしませんよね?」 美琴「………………はい……」 美琴はあきらめた。もう断ることは不可能だと。 こうして美琴達のパーティー行きは決定した。 さらにその後いつも何かとお世話になっているアンチスキルの黄泉川や鉄装も参加するということがわかり、渋っていた固法の参加も決定。 誘った時から行く気満々だった婚后と婚后が行くなら行くということで湾内、泡浮も加え結局みんなで参加することとなった。 美琴「はぁ……どうなることやら……不幸ね…」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の帰還記念祭
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Time enough for Love 第5章 妹達(シスターズ) 13. 「Life of Sisters」 ここはロンドン市内の某所。 『MISAKA-CONSULTANT』、窓も無い殺風景なオフィス。 上条はソファーに腰を落ち着け、出されたコーヒーを啜っていた。 無機質な空間に似合わぬ、美少女と2人きりで。 本来なら喜ぶべき場面にもかかわらず、彼の心は目の前のコーヒーのように暗く、濁っていた。 その少女は『妹達(シスターズ)』と呼ばれていた。 上条当麻の恋人、御坂美琴のDNAを元に作られた『軍用クローン』として、学園都市の闇から生まれ、闇に殺された『妹達(シスターズ)』。 かつて上条の右手の力で地獄から救われた……はずの『妹達(シスターズ)』。 本来、治療のためにどこかの研究所にいるはずの彼女が、なぜここにいるのか? 彼女が言った、最後の1人とはいったい? 俺の正面に座る、この世に生まれてくるはずの無かった少女。 そしてこの『牢獄』に最も似つかわしくない少女。 無表情なようで、微かな笑みと赤らんだ頬の色が、今の彼女の気持ちなのか。 じっと見つめているとそのまま見つめ返してくる視線。 何も言わず、何も言えず、身動きはおろか、視線をそらすことさえ出来なかった。 (俺は、本当に彼女達を救ったのか……?) そう思い返した瞬間、上条は意識を取り戻すことが出来た。 手の中のコーヒーカップの感触を確かめるように、視線を落とす。 先程感じた寒気は収まっているが、それでも背中に僅かな震えが残る。 目の前の少女の向こうに見える恋人の顔。 上条の記憶に残る、あの時に見た恋人の絶望。 その恋人の向こうに見える、生まれ出でた悲しみを持つ少女達。 ――だめだ! ――あのときのお前の顔を、俺は2度と目にしたくない。 ――そう誓ってこれまでやってきたのだから。 ――俺が絶望する時が来ようとも、お前にそんな時は来させない。 ――そう俺は誓ってきたのだから。 ――お前のその闇を、俺も背負ってやる。 ――お前にだけ背負わせるなんてしない。 ――絶対にしてやるものか。 ――いいか、上条当麻。 ――お前はこれから泥沼で足掻くとも、彼女だけは絶対に引き込むんじゃないぞ。 ――アイツには、光の中で輝いてもらうんだ。 ――影になるのは俺の役目。 ――そして光と影は表裏一体。 ――それはもう呆れるくらいに不幸(幸せ)じゃないか、上条当麻。 ――ならば目の前のコイツも、光の世界へ押し上げてやろうぜ。 「なぁ、17000号、お前がなぜここにいるのか、もっと詳しく教えてくれないか……」 そう問われた目の前の少女の顔から、表情が消えた。 かつて学園都市で行われた、先行試作品さえ存在しない、杜撰な兵器開発計画だった『量産能力者(レディオノイズ)計画』。 それによって生み出された軍用クローン『妹達(シスターズ)』は、生命さえ消耗品とする『気狂い野郎共』の招いた悲劇。 上条によって『絶対能力進化実験』が中止に追い込まれた後、生き残った妹達は『治療』として世界各地の研究機関に送られた。 だがその後、学園都市前総括理事長アレイスター=クロウリーの退任・失踪と、それに伴う理事会の混乱により、彼女達はその世界的な庇護を失った。 現在学園都市外では『再生生命体に対する人道的見地による治療行為』と称する形ばかりの延命措置のみが行われているに過ぎない。 更に各国政府機関が、学園都市の先端技術を狙い、彼女らを駆け引きの材料にすることを防ぐため、学園都市側がそれを黙認していることが、それに拍車をかけている。 時間切れにより、全てを葬り去ろうとする、学園都市現統括理事会の意図は明白だった。 アレイスターの失踪により、理事会全体への押さえが利かなくなり、分裂、暴走の様相を示しているようだ。 一部の理事会メンバーにとっては、自らの利益を守るための、とかげの尻尾として見ているのだろう。 ここ何ヶ月かで、一方通行は疲れきっていた。 肉体的にも、精神的にも。 いやむしろ、疲れていたと言うより、追い詰められていた、といった方が正解に近い。 学園都市第7学区にある『冥土返し(ヘブンキャンセラー)』と呼ばれる医師のいる総合病院。 その付属研究所に彼の研究室があった。 クローンの製作に成功したのは、学園都市だけであるため、その研究の中心は(表向きには)この研究所だけだ。 「くそッ、まッたく持ッてジリ貧だぜェ……」 かつて長点上機学園に在籍していた彼は、その優秀な頭脳でもって飛び級で大学入学を果たした。 その大学に籍を置きつつ、客員主席研究員として、この研究所に招かれていた。 彼の研究は、再生医療のトップジャンル、クローン細胞の延命措置に関することだった。 そう、クローン細胞の脆弱性により、『妹達(シスターズ)』の細胞増殖機能が、限界を迎えようとしていた。 その事実を把握している者は、『妹達(シスターズ)』らを除けば、冥土帰しとその病院関係者、及び研究員だけ。 そのことは『妹達(シスターズ)』自らの希望により、オリジナルである御坂美琴には、伏せられている。 「突破口はどこにあるンだよォ、くそッたれめェ……」 今日もデータの数値に向かい続ける日々の繰り返し。 思うような数値が出てこない。 毎日毎日、条件を変え、素体を変え、ありとあらゆる可能性を探る。 おそらく、細胞分裂を促す生体電流系の何かが足りないのだろうということだけは分かっている。 「なにかもっと違う方法はねェのかよォ……」 このまま結果を出せない時間が過ぎていくことに、彼は耐えられなかった。 自分が守ると決めた者達が、目の前から消えようとしている。 まるで、かつて自分が殺してきた者達が、復讐に来ているようにも最近は感じている。 お前に、そんな救いなぞありえない、と。 もう一度地獄へ戻りやがれ、と。 ――昔、超電磁砲(オリジナル)にも、絶対許さないと言われたッけなァ。 ――最近は面と向かって言われることもないがよォ。 ――もし許すと言われてもなァ……、俺にその資格はねェわけだしなァ。 軍用として開発された『消耗品』という事実の前に、一方通行は今まさに敗退しようとしている。 そして、『妹達(シスターズ)』の破滅は、彼女達から演算補助を受けている彼自身の破滅をも意味する。 ――結局、俺もテメェらと一蓮托生ッてわけだ。 ――テメェらだけで、アッチに行かせるもンかよォ。 気が付いたら、今日も時計の長針と短針が、垂直に重なろうとしていた。 ポケットに入れておいた携帯電話にメールの着信。 ボタンを操作し、確認する。 御坂妹こと10032号からだ。 帰りに病室によって欲しいという内容だった。 今のところ、学園都市内に在住する『妹達(シスターズ)』には、最新設備の治療効果により、活動に支障をきたしている個体はいない。 ――今日も死刑は執行されましたッてかァ……、クソッタレェ……。 残っていたコーヒーを飲み干し、着ていた白衣を脱いで部屋を出た。 カツカツと杖の音を響かせながら、蛍光灯に照らされた、誰もいない廊下を行く。 既に空調が止められ、蒸し暑い夜の空気が体中に纏わり付いてくる。 重苦しい心の中と、肌に触れる熱気で、ますますイライラが募るのが、自分でも分かる。 そんな気持ちが爆発しないよう、途中で立ち止まり、左手を握り、叩きつけるように壁を殴りつけた。 痺れるような痛みと、そこから伝わる壁の冷たさが、ヒートアップした気持ちを冷やしてくれる。 肉食獣に追い詰められた獲物の気分を味わいながら、彼は無言で10032号の部屋へ向かった。 ------------------------------------------------------- 冥土帰しがいる総合病院の療養者用病棟にある『妹達(シスターズ)』専用フロア。 その1部屋が御坂妹こと10032号の個室だった。 遠くからカツカツと杖音が近付いてくる。 やがて扉の前で止まると、ノックの音がした。 「入るぞォ」 そのワンルームの室内には、ベッドや机を含めて、女の子らしい家具や調度品が揃い、小さなキッチンやシャワーブースも完備されている。 可愛い模様のが多いのは、いずれも姉である御坂美琴の見立てによるものなのだろう。 御坂妹は、ベッドに腰掛けたまま、身じろぎもせずにぼんやりと窓に映った自分の姿を見つめていた。 一方通行には、彼女の目になにか光るものが見えたような気がした。 やがて――チッと小さく舌打ちをした。 「おい、今日は何だァ?」 その言葉に、彼女は静かに彼の方へ顔を向け、ポツリと言った。 「今日は、10050号の生体反応が消えました、とミサカは冷静を装って報告をします。 これで中米地域に残った個体は……もう……ありません、とミサ……カは……」 「―――ッ!!」 (クソッ、今月はこれで何人目だ……) (俺は……俺は……一体何をやってるンだ……) 半ば覚悟はしていたとはいえ、彼はここでも打ちのめされる。 握った拳がブルブルと震えているのが分かる。 グッとかみ締める唇からは、鉄の味がする。 胸の奥に電流を流し込まれたような、ピリピリしたものが彼の心を削いでいく。 ささくれ立った気持ちが、目の前を、汚れた血のように赤黒く染めるようだ。 自分の情けなさに、そのまま狂い出したくなるような衝動を感じている。 まるで心臓に杭を打たれるような、ギリギリとした圧迫感が身体全体を支配していた。 ようやく精神の平衡を取り戻すように、一方通行は声を出すことが出来た。 「――そうか……。打ち止めは?」 「上位個体にはもう伝わって……います……、あの……ミサカは……この感情をどう……扱っていいのか……」 10032号が嗚咽をこらえて彼に問いかける。 彼女らは、あの実験のときでさえ、涙を流すことは無かったというのに。 「――るせェ……そのまま黙って泣きやがれ……クソが……」 「あなたは…(ヒクッ)…どうなの…(エグッ)…ですか…(ヒクッ)…とミサカは……」 彼女の涙が、一方通行の精神を切り刻んでいく。 自身の中から湧き上がる言葉に出来ないどす黒い感情に、一方通行はビクリと体を震わせた。 それを見ないように顔を背け、眉間にしわを寄せていたが、やがて観念したようにポツリと語った。 「――オレに……そンな資格はねェ……」 「……(クスン)……」 「帰るわ……」 そんな一方通行の素気無さが、なぜか10032号には救いのように感じられ、無性に嬉しく思えた。 「――貴方には感謝を……」 「うるせェ!テメェに礼なンざ言われる覚えはねェぞ!」 ――ほんの僅かな感謝の言葉さえ遮る貴方。 ――血塗られた過去を持つ自分には、いかなる感謝も祝福も、そして贖罪すらも、相応しくないと今もまだ思っているのでしょう。 ――自分に向けられる全ての好意に背を向ける貴方。 ――そんな『一方通行』な貴方は、上位個体や番外個体、ミサカの気持ちに気が付いているのでしょうか。 「……」 「帰り際にろくでもねェこと聞かせやがッて……」 「……」 「感じ悪りィぜ…ッたく……」 「……」 「邪魔したな!」 そう言うと、一方通行は後を振り返ることもせず、彼女の部屋を出ていった。 杖をつく硬い音が、ゆっくり遠ざかっていく。 10032号は、その音を聞きながら、ため息を漏らしていた。 ――つらいのは、貴方の方でしょう……。 ――ミサカ達は、もう十分すぎるほど救われているというのに……。 ――アクセラレータ……、貴方は、どなたになら救われるのでしょうか……。 ――貴方が泣ける場所はどこにあるのでしょうか……。 ――ああ、もう1つ伝えるのを忘れてました。 ――先日あの方も、17000号から私達のことをお知りになりました。 ――あの方なら、一体どうなされるでしょうか……。 ――ミサカには……もう何も出来ないのでしょうか……。 ――ならばいっそ……お姉様に……。 ――でもミサカ達のことを知ったらお姉様は……。 ――ミサカは一体どうすればよいのでしょうか……。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Time enough for Love
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある記憶の消失問題 -③上条の御見舞い- 「ちくしょう…なんでこんなことに……」 上条は現在の時刻を携帯で確認しつつ病院に走る 時刻は夕刻を過ぎ、月が昇ってしまった 「それもこれも筋肉猛獣の所為だー!!」 と叫び、今日を振り返る上条 朝、上条は昨晩の美琴の電話で一睡も出来なかった 「悪夢で眠れねーよりましか…」 そう呟き上条は起き上がり布団を干す 朝食は作る気にも食う気にならず、早々に学校に向け出発する上条 「学校行けば放課後は小萌先生が補習組んでんだろうな……」 出発していつもの公園あたりで上条は肩をがっくりと落としながらそう呟く その後も平穏に歩いて学校に向かった 学校に着き上条は眠い目を擦りながらも授業を全うした 「やっと終った…ってか一時限目でこれってやばくないか……」 しかし、上条の不安はこれ一つではなかった…クラスの女子数名からは正体不明(期待)の眼差しを そして男子からはからかう様な眼差しを向けられている 「多分あれだ…昨日の土御門のチェーンメールの所為だ……絶対そうだ」 本日その土御門と青髪ピアス、吹寄、姫神は何故か揃って風邪でお休みだ そしてもう一つの不安、それは… 「おいっ! そこ上条!! ボーっとすんな!!!」 小萌先生も休みというか俺が休んだ辺りから風邪が流行だしていたらしく、今日一日の授業担当の先生がフルで休み そして……あの筋肉猛獣こと災誤先生が今日一日自習監督を務めることになったのだ…不幸だ 上条はその後、居眠りなどをに犯して放課後に校庭整備を命じられる羽目になったのだ そして月が昇るまで筋肉猛獣の監修の元、校庭整備をさせられていた上条だった 意識を今に戻す上条は一つ心配していることを呟く 「あー、美琴泣いてねえよな…いや、いくらなんでも泣きはしない……よな?」 不安だが昨日の約束を早々に破りかけている上条は今の予測が当たっている気がしてならない それでも上条は駆ける、どんなに遅くなっても会いに行く…そう約束したから 上条はその想いだけで今は全速力で前に進んでいる気がした □ □ □ 病室の室内を照らす夕焼けの日差しが月光の光に変わっても想い人は来ない 「わかってはいるんです、当麻さんにも事情があって来れない日があることくらい… それでも、約束した日が会えないって…少し悲しいな」 病室で美琴はそう呟き、窓の外を見る…街の建物には明かりが灯り、空は黒く月と一部の星だけが光を放つ そんな少し寂しい夜空を見ていたがコツコツという何かが叩かれる音が聞こえ、そちらを見る そこには窓を叩く上条の姿、美琴は心臓が跳ねるような喜びを感じ目に涙が溜まってくる 嬉し泣き…と言えばいいのか 上条はそれを見て慌てている様子だが美琴自身は気付かない、美琴は窓を開ける 「当麻さん、ここ何階だと思ってるんですかっ!」 開口一番、最大の疑問をぶつける美琴 「ん? 3階だろ…あと木登ればここの部屋は届くし問題ないだろ」 と上条はさして気にすることなく木から開けた窓に足をかけ、入ってくる 「で…だ、美琴…遅れて本当に申し訳ない…」 美琴がベッドに腰掛、上条はそれに対峙し謝る…暗い顔をしているのは先程の涙が原因だろう 「いいですよ当麻さん、こうして会いに来てくれましたし…うれしいです」 そう言って美琴は上条に微笑み、頬を赤くし続けてこう言った 「当麻さん…無理なお願いがあるんですけど我が侭を一つ聞いてくれませんか?」 なんだろう? と上条は思ったが 「ああ、いいぞ…遅れたお詫びに何でも聞いてやる」 といかにも上条らしい答えを返す 「私の……恋人…になってもらえませんか?」 上条は硬直し、美琴は真赤になる 「えっと、美琴…さん? そのお誘いは大変嬉しいのですが、それはフリでしょうかそれとも本気なのでしょうか…」 以前に恋人ごっこをしたので念のための確認なのかもしれないと意外と美琴は冷静に判断する 「だ、ダメですか? …私じゃ当麻さんの恋人にはしてもらえませんか?」 しかし口に出して言えたのは冷静とは反対の焦りの入り混じった言葉 「いや、ダメじゃないです…むしろ上条さんとしては万々歳なのですが… 記憶喪失の内から恋人になるのは…と上条さんは少し思うわけで…」 と上条は了承してくれる反応を示すがどうやら今はダメとも言いたいようだ 「当麻さん…あのですね、私は当麻さんのことが好きになりました 出会って数日しか経っていないのにこの気持ちになるのは変だと思いますか?」 美琴は上条にそう問う 「私は今の気持ちに気づいてからなんだかとても落ち着けなくて、心地良いんです… もしかしたら記憶喪失以前もこういう気持ちだったのかな…なんて思えたんです」 そう言って美琴は一息つき 「と言っても…事実として本当にそうだったかはわからないんですけど……でも、でもですね… 本気で私と付き合ってくれませんか? 記憶が戻るまで仮の恋人でもいいです、ですからお願いします!」 と続けた…必死に、そして泣きそうな顔で 「なんて…顔してんだよ、そんな顔されたら断れねーじゃねーか」 その様な顔の美琴を見て上条は優しくそう言った、そして嬉しそうに…そして恥ずかしそうにこう続けた 「俺でいいなら…こちらこそよろしくおねがいします」 こうして夜、病院に不法侵入をした上条当麻に御坂美琴という彼女が出来た その後、実は無音で作動していた防犯システムにより上条が警備員に連れて行かれそうになるのはもう少し後の話 □ □ □ 翌日、上条は美琴の病室で目が覚めた…時刻は7時ちょっと前 「俺、なんでここに…ってそうか昨日の夜…」 上条は思い出す、警備員に必死に美琴が説明してくれたため連行は避けられた上条であったが帰ろうとした時に 「今晩は私の近くにいてくれませんか?」 と少し震えて美琴が言うので上条はずっとベッドの横にパイプ椅子を持って頭を撫でてやっていたのだ 回想が終わり顔を上げるとまだぐっすりと眠っている美琴の顔が目に映る 「やっぱり…可愛いよな、美琴は……」 と上条は言って美琴の頭を優しく撫でる そうすると美琴は気持ち良さそうな顔をして「う、ん…むにゃむにゃ」と猫の様に身をよじる 「そういえば…俺達恋人同士になったんだっけ…」 上条は恥ずかしそうにそう呟き 「実感わかねー」と小さく笑う そうしてしばらく美琴の寝顔を優しく見ているのであった それから時間が経ち7時半前に美琴が目を覚ました 「あれ、当麻さん…ふぁ……おはようございまふ」 まだ眠そうでトロンとした目をしている美琴 「よっ、やっと起きたか」 そう言って上条はニカッと美琴に笑いかける 「あ、お待たせしました…」 上条の笑顔を見て照れたかのように顔を赤くする美琴 「うんうん、やっぱり…」 「やっぱり…なんですか?」 「あー…いや、なんでもない」 「変な当麻さん、ふふっ」 少し赤くなって「なんでもない」そういった上条を見て美琴も笑みを浮かべる □ □ □ 「でさ…記憶喪失の美琴に聞くのもなんだが……恋人ってなにするんだ?」 「うーん、知識としては食事やデートだと思うんですけど…」 上条はあの後、学校に向かい夕方に改めて病室を訪れて話をしていたのだがこういう話になり 「でも、今の私は外にあまり出ないほうが良いですよね……」 そう言った時の美琴の少し残念そうな顔を見てこれはなんとかならないか…と思った そして、面会時間終了という時間まで話をしていたので美琴には先程「また明日な」と言って病室を出た だが上条は玄関ホールに向わずに病院内を歩いている…ある人物を探しているのだ、が 「あれ? 上条さん、面会時間はもうすぐ終わりですけどどうしたんですか?」 と急に声をかけられ上条は振り返る 「あ、ども…ってそうだ、あの先生ってどこにいますか?」 そこには上条と美琴の担当であった看護婦、丁度良いと思い上条はカエル顔の医者の居場所を聞く 「ああ、あの先生ですか…確か今、あそこの休憩室でコーヒーを買ってたと思いますよ」 そう言って看護婦は少し先の休憩室のところを指差し「それじゃあね上条さん」と言って行ってしまった 「ふぅ…で何か用かな?」 上条が休憩室に顔を出すと「わかってるよ」とでも言うかのような言葉をいきなりかけられる 「なんでわかるんですか…、まあいいですけど…美琴に外出許可を貰えませんか?」 「いいよ」 と上条の質問に即答のカエル顔の医者 「はやっ! ってかいいんですか!? そんな簡単に出して!」 「君はどっちがいいんだい…」 上条はツッコミを速攻で入れたが結果、カエル顔の医者に半眼でおいおいと見られることになる 「いや、外出できるのは嬉しいんですけど……なんというかあっさりしてて」 そうだ、今までの経験上何かしらありすぎてこうあっさりいくと不気味でしょうがない 「まあ、君が言うのはわかるよ、それに条件があるからね……条件は君が一緒にいることだ、いいね?」 「あ、は…はい、それはいいですけど…外出の理由はないんですか? それに…回復しますよね…美琴の記憶…」 と歯切れが悪い上条にカエル顔の医者は 「言っておくけど、記憶喪失が治るには時間がかかるものだからね、あまり気にしない事だよ」 そう言ってカエル顔の医者は持っていたコーヒーを一気に飲み干し上条の肩を軽く叩く 「あと、理由だけど病院内にずっといて回復を待つよりも外に出て色々体験した方が戻り易いかもしれないからね」 そしてカエル顔の医者は休憩室から出て行った 上条はカエル顔の医者が出て行ったのを見て自分は玄関ホールへと向って行く…すると 「ちょっといい加減にして下さいませんの! いるんですの? いないんですの! はっきりして下さいまし!!」 と聞き覚えのある声が聞こえてきたのでそちらを向く そこには面倒くさそうに受付を閉めようとしている看護婦とその看護婦にギャーギャーと言っている白井の姿 「………何してんだ? アイツ…」 上条はそう呟いていた 「ん? ってあなたは!」 その呟きが聞こえていたらしい白井は看護婦に向けていたであろう鬼のような形相を上条に向ける そして、これはチャンスと思ったのか看護婦は受付を閉めて猛ダッシュで立ち去った 「………はやっ、ってこっちもそれどころじゃねえ!」 上条は看護婦さんのスピードを見て唖然としていたが白井が迫ってきている事に気付き叫び、逃げる 「逃げるんじゃないっですの!」 「だったらせめてその顔をやめろ! それに金属矢もしまえー!!」 と叫び病院から離れて行く二人を見つめる二人の少女が居た事を上条は知る由もないし、白井はすっかり忘れていた 恐怖の空間移動追いかけっこに突入した結果……上条はもちろん逃げ切った、が この時ある人物が上条を追跡していた事を上条はまだ知らないのであった □ □ □ 「あー、やっと自宅に帰って来れましたか…」 上条は自分の家に着き玄関にへたり込む…、するとコンコンと控えめなノック音が聞こえた …だれだろ?「はーい、ちょっとまってください」カチャ ドアを開けるとそこには長髪の髪に白い花の髪飾りをつけた少女が立っていた 「………えっと、どちらさまですか?」 「私、佐天涙子っていいます、御坂さんの事についてお聞きしに来ました」 上条は観念した…自宅にまで来られた以上、逃げる事は無理に等しい 「はぁ…仕方ない、説明するから中へどうぞ…」 上条は仕方なしにそのまま部屋の中へ佐天を招く 「……………と言う訳だ、俺は…後悔してる、一緒にいた俺の方が美琴を守らなきゃいけなかったのに…」 上条はお茶を出し佐天に事故とその後をすべて話した 「…………わかりました、これは白井さんには内緒にしておきます…で、上条さんもう一人呼んでもいいですか?」 「は?」と上条が首を傾げているとコンコンと再びノック音が聞こえた 上条が動く前に佐天が玄関に走りドアを開け招き入れたのは遠くから見れば頭が花瓶のようになっている少女だ 「私も御坂さんの友人の初春飾利です、上条さん私も一緒にお話に加わってもよろしいですか?」 と聞いてきたがここまでくれば加わらない方がおかしいだろう 「ああ」 上条はそう言って立ち上がり、初春の分のお茶を淹れて再び座る 「で…上条さん、一つ確認しておきたいんですけど」 「なんだ?」 佐天の真剣な顔と言葉に首を傾げる上条 「上条さんって御坂さんのことが好きなんですか?」 「なんだ、そんなことかそりゃ好きだぞ……あ」 あまりの真剣な表情になにか重大なことを聞かれると思っていたのであった上条だが… 予想外に別角度の話にポロっと本音がこぼれ、二人の少女を見ると顔を赤くしてしてやったりの笑みを浮べている 「なるほど、なるほど、上条さんは御坂さんが好きなんですね…で恋人なんですか?」 「いや…これ以上は言えないと言うか…」 「白井さんにばらしますよ」 佐天の質問に顔を背け解答拒否をする上条に初春が脅しをかける 「ちょ、初春黒っ!」 「拒否権無しかよっ!」 各々の反応を返す二人に初春は 「利用できるものは利用するんですよ、佐天さん」 と変なスイッチが入った初春を見て佐天は 「あー、上条さん…私、初春止められないんで覚悟決めてください…」 「はぁ……不幸だ」 それから上条は初春に聞きだせる情報をすべて引き出されるのであった… □ □ □ その後、夜道を歩く三人 「それにしても記憶喪失なのに御坂さんから告白してくるなんてなんかすごいですよね」 佐天が上条にそう言ってくる 「俺としてはそれを受けちまって本当に良かったのかどうかまだわからないんだがな… でも、俺も嬉しかったな…告白されて前も同じ気持ちだったかもなんて言われたからな」 上条は照れ隠しのように天を仰ぎ、頬を掻く 「でも、記憶喪失が早く治ってほしいですよね…」 「ああ…」 初春の心配に上条は短くそう答えた 「上条さんも身体に気をつけてくださいよ、今御坂さんを支えられるのは上条さんだけなんですから」 「わかってる…ありがとな、二人とも…美琴もこんな友人を持ってすげー幸せ者だな」 上条は初春と佐天に美琴の代わりに感謝の言葉を告げる 「それじゃ、上条さんはもっと幸せなんじゃないですか~?」 「そうですよね~、御坂さんに告白されるくらいですし」 と初春と佐天にからかわれるのであった 「あ、それじゃここまででいいですよ私達すぐそこですから」 と、佐天が言い、上条は 「そうか? それじゃ気をつけて帰れよ」 「「はーい」」 二人は元気にそう言うと上条に振り返り手を振って去っていった 二人が見えなくなるまで上条は見送るとある場所に向けて歩を進める □ □ □ とある公園 上条はベンチに腰掛てヤシの実サイダーを一口飲む 「美琴にこれ買ってってやるかな…」 そう言ってさらに一口飲む 「やっぱり、出かけるなら早いうちがいいよな…今日は金曜だし明日行くか…」 携帯を取り出し、上条は美琴にかける ピリリリ、ピリリリリ…カチャ 「もしもし、美琴?」 「どうしたの、当麻」 ほぼワンコールで出てくれた美琴 「先生には許可貰ってあるからさ…明日一緒にデートしないか?」 「え、いいの? 行く行く! 絶対行くよ、当麻」 美琴はすごく嬉しそうな声で答えてくれた 「そうか、それなら明日朝迎えに行くから今日は早めに寝るんだぞ」 と上条はそう言ってまた一口喉を潤すためにサイダーを飲む 「はーい、それじゃ当麻おやすみ」 「ぶふっ! ごほごほっ…いや、もう寝るのかよ…」 まさかこんなに早く寝ようとするとは思わなかった上条は吹いた 「うん♪ だって明日寝坊したくないんだもん」 「そ、そうか…それじゃあな」 携帯を切り、残りのサイダーを一気に飲み干す 「さて、俺も明日の準備をしねーとな…」 上条はベンチから立ち上がり、缶を自動販売機横のゴミ箱に投げ捨てる… カンッと音が鳴って投げた缶はゴミ箱のふちに当たって地面に落ち、転がって行く 「はぁ…直に捨てた方がよかったか…」 上条は素直に缶を拾いに歩き出し…ある人物がそこにいることに気付く 「あれ? 青髪ピアス…か?」 そう、本日も学校を熱で休んでいたはずの青髪ピアスがそこにいた 「カ、カミやんが…女の子とデートの約束をしとったなんて…まさか、あのチェーンメールはほんまやったんか…」 そう呟いてフラフラとどこかへ歩いて行ってしまった 「おーい…って行っちまったか、大丈夫かアイツ…」 と上条は頭を傾げたが「まあいいか」とスッパリと忘れる事にし、缶をゴミ箱に捨て帰路につく 上条は知らない、この時の青髪ピアスが何をするのか… そして上条と美琴のデートがどのようになってしまうのか…… だが、デートがどうなるかは本日上条がどれだけ頑張って調べて計画を練るかにかかっているのだ 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある記憶の消失問題
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸な都市伝説 5日目 中編 今思えば、今日は朝から何かがおかしかった。 寮の中はいつもよりざわついていたし、 普段から注目を浴びてはいるが、今日はいつにも増して視線を感じている気がした。 白井も朝から滝【シャワー】に打たれながら、なんだかぶつぶつ呪文を唱えている。 まだ上条を呪い殺す事を諦めていないらしい。 「スベテハアイノターメリック ハラハラハラペーニョ ナカレチャヤダモンシナモンカルダモン ムリカパプリカ―――」 節子…それも黒魔術の呪文やない。おいしいカレーを作るための呪文や。 うん、白井だけは通常運転だったようだ。 とまぁそんなわけで、御坂は今日一日中、授業も集中できなかった。 そう、今日は朝から何かがおかしかったのだ。 そして現在は放課後。 御坂は大勢の少女達に囲まれている。 「御坂さん! 好い殿方がいらっしゃるというのは本当ですか!?」 「さすがは御坂さんですわ! 是非、私にも紹介してくださいな!」 「御坂様がお選びになった方なら、きっと素敵な御人なのでしょうね……羨ましいですわ。」 なぜか、「御坂には恋人がいる」という噂が広まっていたらしく、彼女は放課後になると同時に質問攻めにあっていた。 どうやら噂の出どころは婚后らしい。 おそらく婚后は、昨日風紀委員第177支部で聞いた話を学校中に広めたのだろう。そして噂には尾ひれがつくものである。 たしかに常盤台の生徒にとって、これ以上の話のネタはない。 なにしろ御坂は、校内ツートップのひとりだ。 しかもそれが恋愛話となれば、それはもう盛り上がるだろう。 いくらお嬢様といえど、そこはやはり中学生なのだから。 だが当の本人はたまったものではない。 昨日、上条への想いを姫神にぶちまけたおかげで、多少吹っ切れたことは確かだが、それでもこの状況はあまりよろしくない。 「え…あの…だから…それは…アレが…コレで…ふにゃ…ふにゃ…」 御坂はあまりの恥ずかしさに、うまく否定することもできず漏電しかかっていた。 このままでは多くの少女達が犠牲になってしまう。 だが、ついに御坂が「ふにゃー」しかけたその瞬間、 周りを囲んでいた少女達は、一糸乱れぬ動きで一斉に御坂から離れ、 突然、腕を前から振り下ろして、前曲げを深く大きく反り始めた。 「なっ……!?」 おどろく御坂だが、彼女達が急にラジオ体操第二を、しかも途中から始めた事におどろいている訳ではない。 むしろ原因が分かっているからこそおどろいているのだ。 こんなことができるのは、学園都市広しといえど、いや、世界中探しても彼女だけかもしれない。 常盤台中学のもうひとりのLEVEL5。 食蜂操祈だ。 (……何を考えてるのかしら………) 助かったが、素直に喜べない。 食蜂は無償でこんなことをする人物ではないのだ。 ただの気まぐれか、何か企んでいるのか。 まぁ十中八九後者だろう。 だが問い詰めたところで、はぐらかされるのがオチだ。 なので、御坂は食蜂に会わずに教室を出た。 というより、そもそも会うのも嫌だったのだ。 それほど食蜂のことが苦手なのである。 走り去る御坂の背中を見つめながら、食蜂は何を思うのか。 「くすくすっ…上条当麻ねぇ………面白いこと聞いちゃった☆」 おそらく、ろくでもないこと思ってる。 御坂はいつもの公園に向かっていた。 上条と会うのは気まずいはずなのに、気が付くとそこへ足が向いていたのだ。 いやはや習慣とは恐ろしい。 ここは、上条のエンカウント率が最も高い場所だ。 とはいえ毎回会えるわけではない。 狙って会おうとすると会えず、忘れた頃にばったり会ってしまうのだ。 まぁ、はぐれメタルのようなものである。 見慣れた自販機が見えてきた。いつもハイキックをきめる、あの自販機だ。 するとその隣に人影が見えた。 その人影は、こちらにどんどん近づいて来る。 嫌な予感がする。 見間違えるわけがない。あのツンツン頭。 御坂が今、一番会いたくない人物。 上条当麻だ。 やはりこの男は、会いたくないときほど、ピンポイントで会えるらしい。 御坂は、上条の存在に気付くやいなや、即座に踵を返し逃げようとした。 このままではマズイ。 一昨日の出来事が鮮明に蘇ってくる。 上条の顔を見ただけで、体温が1℃上昇しているのだ。 話しかけられたら、どうなるか分かったものではない。 しかし上条はそんなこと知る由もないらしい。 御坂は腕をガッと強引に掴まれた。 逃げられない。 いつもならこんなとき、適当に電撃でも浴びせて相手から距離をとるのがセオリーだ。 だが上条に能力【でんげき】が効かないことは、過去の経験【おいかけっこ】から分かりきっている。 そういった意味ではまさに天敵だ。いまなら神・エネルの気持ちがよく分かる。 「すまん美琴!! この前のは、俺が全部悪かった!! 謝ってすむ問題じゃないけど、とにかくゴメン!!」 腕を掴まれて心臓がバックバックしている中、上条が一昨日のことを謝ってきた。 御坂も、自分の心音が上条に伝わらないか心配しながら答えた。 「べべべ別にいいわよ!!! あ、あれは事故だって分かってるし!!」 冷静に対応した(つもりだ)が、目は合わせられない。 もう何がきっかけで漏電するのか分からない状態なのだ。 だが、せっかくこっちが漏電しないように必死に頑張っているというのに、 上条は「知ったこっちゃねぇよ」と言わんばかりに、次々に追い討ちをかけてくる。 「美琴、ひとつ聞くけど……お前、俺のこと好きか?」 突然なんちゅう質問してくるんだコイツは。 きっと上条の作戦は「ガンガンいこうぜ」なのだろうが、「いのちだいじに」に変更したほうがいいのではないだろうか。 御坂的には当然「YES」なのだが、そんなもん言える訳がない。 だって恥ずかしいから。 「バッ!! ババババカじゃないのっ!!!? そそそんなことあるわけないじゃない!!! バカじゃないの!!? あ、あ、あたしが何でアンタのこと、す、すすすす好きじゃないといけないのよ!! バカじゃないの!!?」 思いっきり拒否ってしまった。 本当にツンデレというのは、苦労が絶えない生き物である。 しかし上条は諦めていないらしい。 彼は、少し切羽詰ったような真剣な顔で、御坂にある頼みごとをしてきたのだ。 それは御坂にとって、とんでもない要求だった。 「頼む美琴!! 俺の恋人になってくれ!! 俺にはお前が必要なんだ!!」 …………………………? 御坂は、上条の言った言葉を頭の中で繰り返す。 始めはその意味が分からなかったが、彼女はこの学園都市でも三番目の頭脳だ。 30秒間じっくり演算した結果、ついにその意味を理解する。 !!!!!!!???? 「美琴? おい美琴!!」 理解した結果、彼女は立ったまま気絶した。 氷帝の部長のように、この後坊主にされないか心配である。 「くそっ…美琴まで……」 突然気絶した御坂を、上条はゆっくりと公園のベンチに寝かせた。 きっと魔術によってこうなったとでも思っているのだろう。 (これからどうすっかな……) 上条はどう動くべきか悩んでいた。 一刻も早く魔術師を見つけなければならないが、御坂をこのままにしてもおけない。 そもそも敵の情報が少なすぎるのだ。 というかそんなものは端から無いのだが。 下手に動くこともできず、上条は御坂の隣に腰掛けた。 その様子を食蜂はこっそり見ている。 彼女はあの後、御坂のあとをつけていたのだ。 御坂にさとられないように大分距離をとっている為、会話はまったく聞こえなかったが、 二人の様子を見た感じ、確かに恋人同士に見えなくもなかった。 (あの御坂さんに彼氏ねぇ……情報力には自信あったけど、直接見るまでは半信半疑だったのよねぇ。 それにしても、いまどき公園デートだなんて、なかなかカワイイ所があるじゃないのぉ。 まぁ、御坂さんには子供っぽいデートの方がお似合いだけどぉ。) そこで食蜂はニヤリと笑った。 (本当、その幸せそうな空気、私の改竄力でぶち壊したくなっちゃうわぁ……) 食蜂は、バッグからリモコンを取り出し、そのまま上条に向けた。 「ピーリカピリララポポリナぺーペルトー! 御坂さんのことが大っ嫌いになぁ~れ☆」 ……………おかしい。 食蜂が、お邪魔な魔女のような呪文を唱えたことがおかしいのではない。 何も起きないことがおかしいのだ。 彼女の能力は「心理掌握」。 精神に関することならば、読心、念話、洗脳はもちろんのこと、 記憶の消去や意志の増幅など、もはや何でもござれな能力だ。 その応用性の高さから、十徳ナイフに譬えられる程である。 ベガ様のサイコパワーだって、ここまで便利ではないはずだ。 彼女が、「牛丼を嫌いになれ」と言えば、牛丼一筋300年の人だって食えなくなるのだ。 だが上条が御坂を嫌いになった様子は無い。 相変わらず御坂の隣に座っているし、 たまに御坂の髪を撫でてみたり、ほっぺをプニプニ突付いてみたりしている。 上条的には、「早く起きてくれないかなぁ…」と刺激しているつもりなのだが、 傍から見れば、カップルがじゃれ合っているようにしか見えない。 (ど、どうしてぇ!? 私の改竄力は完璧なはず……なのにどうして効いてないのぉ!?) 今までこの能力は、御坂以外に破られたことはない。 しかも、御坂のときのように電磁バリアで遮られている感覚はない。 まるっきり効いていないのだ。 まるでその場で打ち消されているような、そんな感覚だった。 全く出会ったことのない未知の能力に、食蜂は顔を強張らせた。 まさか「幻想殺し」なんてトンデモ能力がこの世にあるなんて、想像もつかなかったであろう。 しかし、ここで諦める食蜂ではない。 (………ほ、本人に効かないなら、周りの人間を使えばいいだけじゃない。) 食蜂は辺りを見回した。 すると、映画のパンフレットを二冊持って唸っている、小柄な少女を発見したのだ。 「むー……超迷いますね。 『エイリアンVSプレデターVSジェイソンVSフレディ』にするか、 それとも『実写版 ジョジョの奇妙な冒険(第5部)』にするか…… どっちもC級の匂いが超しますが、今月はあの超名作『義妹』のDVDも発売することですし………う~ん……」 何かぶつぶつ言っているが、関係ない。 食蜂は「今度こそ!」と、意気込みながら、少女にリモコンを向けて能力を使う。 すると少女は、一目散に上条のところへ駆けつけた。 (……今回は全速力で効いたわねぇ。本当にさっきのは何だったのかしらぁ?) 上条はベンチに腰掛けながら、ケータイをじっと見ている。 (一応、一方通行と浜面にも連絡しといたほうがいいかな…? あいつらも『闇』に深く関わっちまってるし……) などと思っていると、向こうから小柄な少女が猛ダッシュしてきた。 名前は知らないが見覚えはある。 確か、屈辱のバニーがどうとか言っていた子だ。 「えーと……何かご用でせうか?」 「好きです! 超好きです! 超付き合ってください! 今すぐに!」 上条は内心「またか」と思いながら、念のため少女の頭を触ってみる。 するとあっさり洗脳が解けた。 「あ、あれ? 私は何をしてたんですかね…?」 (解けた!? 姫神たちにはダメだったのに…… 幻想殺しも効くときと効かないときがあるのか。 何か法則があるのか?) おどろく上条だが、その一方でもっとおどろいている人物がいた。 (な、な、な、何でなのぉ!? 私の洗脳力がまったく通用しないなんて、一体どんな能力なのよぅ!! くっ……ここは一旦退くしかなさそうねぇ…… 一度、彼のことをじっくり調べてから出直しましょう……) 食蜂は作戦を立て直すために、そそくさと帰っていった。 彼女は、もはや御坂を邪魔することよりも、上条本人に興味がそそられていることを、はたして自覚しているのだろうか。 「何だかよく分かりませんが、超助かりました。 ありがとうございます。」 「いや、気にしなくていいって。 それよりも、あんたを洗脳したヤツに心当たりはないか? 犯人を追う手がかりが、ひとつでも欲しいんだ。」 「う~ん、分かりませんね……でもこの私の精神を乗っ取るってことは、 相手は超やり手の能力者だと思います。 それこそ「心理定規」や「心理掌握」クラスの……」 「そっか…ありがとな。(なるほど、魔術師だとばかり思ってたけど、能力者って線もあるのか。)」 さらにドツボにはまっていく上条。 その上条を横目で見ながら、少女はケータイを取り出した。 「ケータイの番号、超教えてください。」 「? なんで?」 「協力します。 私もやられっぱなしじゃ超気が済みません。 情報が入ったら連絡しますので。」 「ありがと。 そう言えばお互い、自己紹介してなかったな。 俺は上条当麻。 よろしくな。」 「私は絹旗最愛です。 超よろしくおねがいします。」 アドレスを交換して絹旗と別れた。 食蜂と絹旗。 新たに二本の小さい旗【フラグ】を建てたことは、当然上条は知らない。 (それにしても、思ったよりも事態は深刻なのかもな…… やっぱり恋人役は必要だな。 返事もまだだし、早く起きてくれ美琴~!!) 深刻なのはお前の頭の中だけである。 目を覚ますと、そこは公園のベンチだった。 (あれ……どうしてあたし、こんな所にいるんだっけ……) ぼんやりとした頭が徐々にはっきりしてくると、なぜ自分が気絶したのか思い出してきた。 「!!!!!!!!」 御坂はガバッと起き上がる。 すると目の前には、いきなり上条の顔があった。 「おっ! やっと起きたか美琴……って、うおーい!!!」 再び気絶しかけた御坂を、上条は抱きかかえた。 そんなことするから気絶するんだってば。 「しっかりしろ! 美琴!!」 「ううううるさいわね!!! アアアアンタが変なこと言うのが悪いんでしょうが!!! ああああたしにだって、その、こ、こ、こ、心の準備ってもんが……(ごにょごにょ)」 変なこととは、先程の告白のことだろう。 確かに変だった。 「そっかぁ~…やっぱダメかぁ~…… そりゃそうだよなぁ~……」 「!!! ダ、ダメなんて言ってないでしょうが!! 何で簡単に諦めんのよ!!」 「えっ? じゃあいいのか?」 「えっ!!? ま、まぁどうしてもって言うなら? 考えてあげても? いいけど?」 テンパって自分でも何を言っているのかきっと分かっていないだろうが、御坂は恋人になることを否定しなかった。 この無自覚男が突然、本当に突然、不自然なくらい突然に告白してきたのだ。 聞きたいことなど山ほどあるが、そんなことは後でいい。 このチャンスを逃してはならない。 本当のところは、もういっぱいいっぱいなのだが、気絶なんかしていられない。 御坂は気合と根性で漏電を堪えていた。 そもそも、向こうから恋人になってくれと言っているのだ。 そりゃもう、なってやろうじゃありませんか。 「良かった~! ありがとな美琴!!」 「~~~~~!!!」 何かもう、うれしいとか恥ずかしいとか、色んな感情が入り乱れすぎて、どんな気持ちか分からない。 「じゃあ詳しく説明しなきゃな。(事件のこととか。)」 「い、いいわよ! あ、あ、あたしだって子供じゃないんだから!! ど、どうすればいいかなんて分かってるんだから!! (今のアンタの気持ちなんか詳しく聞いたら、絶対にまた気絶しちゃうじゃない!)」 「そっか、じゃあこれからヨロシクな!(美琴は事件のこと知ってるのか……まぁ説明する手間が省けたし、いいか。)」 「う、うん! ヨロシク!!(ヨロシクってことは……やっぱりそういうことよね…… うわ~!どうしよ~!!)」 こうして晴れて恋人同士(?)になった二人。 しかし、二人にはこれからも様々な障害が立ち塞がることだろう。 だって会話が成り立ってるようで成り立ってないんだもん。 そしてそんな二人のもとに、8人の魔術師が近付きつつあった。 彼等は果たして何者なのか。 敵なのか、それとも……? つづく。 なんだこの状況。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある不幸な都市伝説
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Time enough for Love 第5章 妹達(シスターズ) 14. 「The Princess in the High Castle」 17000号から聞かされた話の中身は、俺の予想をはるかに越えていた。 話を聞きながら、俺は自分が震えているのに気が付いた。 怒りも、恐怖もなかった、はずなのに……。 なのにガチガチと、奥歯がなるような震えが止まらない。 なにかの悪い夢? 夢を見ているのか? ――ならこの後、意識が反転して…… ――気が付いたら下宿のベッドで…… ――夢か……なんてつぶやいて…… ――ほっとするはず…… ――なんだろうが…… 俺の全身から流れる汗は、冷たく、より冷たくなっていく。 部屋の湿気った空気が、また更に湿度を上げた。 周囲の壁から聞こえる、鈍い低音の空調の音が、まるでキャパシティダウンのように、俺の脳裏に響いてくる。 音が気になって、何も考えられないって、こんな感じなのか……。 どこから入り込んだのか、天井の蛍光灯に、虫がジジ、パチン、ジジ、カチンと飛びかかる音がする。 雑音が気になって、少女の話に入り込めない。 ああ、違う。 違うんだ。 俺は……そんな話を……聞きたくないんだ。 目の前の現実ってヤツから……逃げ出したいんだ。 そう思ったとき、俺は腕組みをし、足を組んでいたのに気が付いた。 それは、相手を拒絶する無意識での意思表示、だと前に聞かされたことがある。 話に入り込めなくて、なにか他人事のように俺を見ている俺がいて……。 「――悪い、もう一度、そこを説明してくれないか」 「はい、何度でも繰り返します、とミサカは貴方の理解力の無さに、あきれながら説明を続けます」 理解力じゃないんだ、と俺は叫びたかった。 そんな話、信じられねぇって叫びたかった。 そんなことあってたまるかって叫びたかった。 耳を塞いで、この場から逃げ出したかった。 俺が認めたくなかったのは……。 目の前にあって、すでに進行中で、目の前のこの子は死刑執行を待つ身で。 そして俺は今、この子を……助ける手立てが……わからねぇってことで……。 どうしたらいいんだ?上条当麻。 考えろ! あの時みたいに考えろ! 美琴達を救い出したときのように考えるんだ。 あの時お前は『妹達(シスターズ)』と御坂美琴を救ったんだ。 だからもう一度お前の手で、救うんだ。 救えるのは、お前しかいないんだ……。 わかった、わかっているよ、わかっているとも。 そうさ、わかっていても、今の俺には何も思いつかない。 ああ、気分が悪いよ。 何もかも気分が悪いよ、全く。 この話にも、黙ってそれを聞くしかない俺にも、そして何も考えられない俺にも……。 ――なあ美琴、俺は一体どうしたらいいんだ? 今まで俺は自分がこんなに無力だったとは思わなかったよ。 代償はいろいろ払ってきたけれど、それでも最後は、 何1つ失うことなく、誰1人欠かすことなく、俺は全てこの手で救ってきた。 だけど今、俺はその夢を守れなかったんだ。 お前の周りの世界を世界を守れなかったんだ。 失くしてしまった『妹達(シスターズ)』。 失くしてしまった俺の夢。 これも、俺の『不幸』なんだろう。 俺は、こんなにも無力だったんだ。 俺が救えなかった命。 俺の右手から零れ落ちていった『妹達(シスターズ)』。 ――自惚れていたんだ。 ――救ったつもりでいたのは、結局は俺の小さな自己満足にすぎなかったってことだ。 ――結局、俺は……。 ――なら今はせめて…… 「17000号、頼みがあるんだが……。 死なせてしまった『妹達(シスターズ)』の墓って、どこにあるんだ? せめて……アイツ等のところへ連れて行ってくれないか……」 そこにいたのは、現実という強敵に打ち倒され、敗北を喫した『元』ヒーロー。 その姿は、かつて誰も目にした事の無い、自らの『幻想をぶち殺された』上条当麻の姿だった。 -*- -*- -*- 夏が過ぎ、イギリスの短い秋が終わろうとする頃。 ここはロンドン・キングスクロス駅5番線。 東海岸線、午前10時発・エディンバラ・ウェイヴァリー駅行きHST225『フライング・スコッツマン』。 第二次大戦中、ロンドン空襲の最中でさえ定時発車を守り続けた、英国を代表する特急列車だった。 英国国鉄の落剥・民営化とともに、今はかつての栄光の残滓にすぎない、やや古ぼけた列車になろうとしていた。 上条当麻とミサカ17000号は、その車中の人となっていた。 ロンドンから終点、エディンバラ・ウェイヴァリー駅までおよそ4時間半。 そこからレンタカーで、目的地、スコットランド・ガラシールズへと向かう2人だけの旅。 学園都市の出先研究機関があり、かつて『妹達(シスターズ)』の調整が行われていた施設があった。 今は学園都市の混乱に伴い、ここの施設は閉鎖され、他の場所に統合されている。 それにより、『妹達(シスターズ)』関連施設も、17000号の調整を最後に廃止され、他の『妹達(シスターズ)』とともに再び学園都市に引き取られる「予定」であった。 しかし、学園都市側の受入準備の検討中という名目でその手続きは一向に進められず、ミサカ達は放置同然の扱いを受けた。 調整機関もすでに閉鎖され、学園都市側に放置されたミサカたちは次々とその寿命を閉じていった。 その惨状に気が付いた『冥土帰し』や親船、貝積両理事らの奔走で、かろうじて17000号だけが御坂旅掛に引き取られることとなったのだった。 あの日、旅掛の事務所で、これまでの事を17000号が上条に教えた時、彼はただ拳を握り締め、涙を流すしかなかった。 かつて一方通行と戦い、救い出した『妹達(シスターズ)』が、なぜまたこんな目に合わなければならないのか。 御坂美琴の周りの世界を守ると言った自分が、こうなるまで何も出来なかったことが情けなくて。 そんな重荷を背負った美琴が愛おしくて、何とかしてやりたくて、支えてやりたくて。 そんな何も出来ない自分と、それを受け入れる自分の弱さと偽善が許せなくて。 何1つ失うことなく、誰1人欠かすことなく、全て救って帰るという自分の夢が破れたことが悲しくて。 上条はずっと涙を流し続けた。 やがて事務所に戻ってきた旅掛が、そんな上条の肩を軽くぽんぽんとたたき、優しく声をかけた。 「そんなに自分を責めるものではないよ、当麻君」 ソファーにどっかりと腰を下ろし、懐からタバコを取り出して火をつけながら、言葉をつないだ。 「誰しも皆弱い人間さ。 この私だって、この現実には抗うすべが無かった。 大人の私でさえそうなのだから、まだ若い君が気にすることは無い」 半ばあきらめかけたような口ぶりで、白い煙を吐いた。 遠くを見るような目をしながら、旅掛はタバコを吸い続ける。 「私とて、世界中の闇に関わる仕事をしてきた。 世界に足りないものを示すことで、その闇を少しでもなんとかしようと思ってね。 だが、実際にはうまくいかなかったことの方が多い。 助けることが出来なかった人の顔が、今も脳裏から離れないよ」 ふぅーっと、吐き出すように、旅掛がタバコの煙を撒き散らす。 その姿に、いつしか上条は自分を重ね合わせていた。 旅掛は話を続ける。 「これまで何度、拳を握り締め、涙を流したか……。 私だってヒーローになりたかった。 目の前の全てを救ってやりたかったさ。 だがね……」 旅掛が上条をまじろぎもせず見据えた。 その視線を、上条は正面から受け止める。 彼の次の言葉を待つ。 「――やっぱりこれ以上はやめておこうか。 人間は他人の経験からほとんど何も学びはしないんだ。 ここから先は君が自分で探していくことだ。 私は君にお節介をするつもりはないからな」 「――そうですか……」 上条の顔に、落胆の表情を見ながら旅掛が続けた。 「大丈夫、君なら出来るよ。 過去のことは、終わったことにとらわれるな。 そこから学んでいけばいい。 そして目の前のことから逃げないことだ。 今は負けでも、最後に勝てばいいじゃないか。 その時、出来ることからはじめよう。 君はまだ若い。 いくらでもやり直しをする時間はあるじゃないか」 その言葉は、上条の何かに触れたようだった。 先程までの情けない顔に生気が戻ってきたようだ。 -*- -*- -*- 「ところで1つ相談なんだが……」 旅掛が先程と違った雰囲気で、唐突に話を変えた。 「私は、このことを美琴に言うべきかどうか迷っている。 あの子のことだ、この事を知れば、間違いなくショックを受けるだろうし。 その後、娘がどうなるのか、どうするのか、ちょっとわからないんだ」 先程までの男の顔が、娘思いの父親の顔になる。 「そこで君の意見を聞きたくてね……」 とぼけた顔の旅掛が、タバコを吸い続ける。 上条は旅掛の顔をじっと見つめていた。 「そうですね。俺もどうするのがいいか、わかりません。 でも……」 上条は、美琴の笑顔を思い出していた。 「――でも美琴なら、なにがあっても自分のすべき事を探して、立ち上がる様に思えるんです。 なにか障害があっても、それを乗り越えようとすると思うんです。 今の美琴なら、『妹達(シスターズ)』のために、俺と一緒に戦ってくれると思います。 なんとなくなんですけどね」 そう言って、照れたように頭をガシガシ掻いた。 「君は、彼女の父親の前で、そんな惚気を言えるとは、なかなかいい根性をしているじゃないか」 旅掛がそう言うと、テーブル越しに上条の胸倉をつかんで引き寄せ、不敵な笑みを浮かべながら、タバコの煙を吹きつけた。 上条が吹き付けられた煙で、ゴホゴホとむせる。 「君が娘の恋人だとは、父親として幸せなんだか不幸せなんだか、よくわからないが……」 吸っていたタバコを灰皿に擦り付け、つかんでいた手を離す。 開放された上条が、中腰になっていた腰を下ろし、息を整えていた。 旅掛が両手をテーブルにつけ、上条を真剣な顔で見据えた。 「私の決心も付いたよ。 いつまでたっても父親ってのは、娘のことになると冷静でいられないものなんだな。 やはり君は、私に足りないものを示してくれたようだ。 ありがとう、当麻君」 そう言って上条に向かい深々と頭を下げた。 「いや、そんなつもりじゃ……」 ないんですが、と言いよどむ上条の顔に、喜びと恥ずかしさが浮かんでいる。 その純粋な感情に触れ、旅掛は久しぶりに暖かな気持ちを味わった。 「なにかお礼をしたいんだが、希望はあるかね」 旅掛が再びタバコを取り出して火をつけた。 そう聞かれ、恥ずかしさで俯いていた上条が、顔を上げた。 旅掛から向けられる真剣な眼差しに、上条は、同じくその視線を外さぬよう真剣な面持ちで、おずおずと答える。 「――俺、妹達(シスターズ)の墓に行ってこようと思ってるんです」 上条のその顔に、なにか感じるものを汲み取った旅掛が、白く口から煙を吐いた。 「そうか、行ってくれるか。ありがとう。きっと彼女らも喜ぶと思うよ。 場所はこの子が知っているから、案内してもらうといい。 身分証明書も免許証も持たせてあるから、車の運転だって出来るし、心配ない。 なにもかも全部彼女に任せてしまえば問題ないさ」 上条が旅掛に頭を下げる。 「ありがとうございます」 「なに、気にすることは無いよ」 旅掛がもう一度父親の顔に戻る。 「そうそう、彼女にはちゃんと『御坂美笛』という名前があるんだ。 もっとも、私が名前をつけたのは今のところ、彼女だけだがね。 いずれはシスターズ全員にちゃんとした名前をつけてあげるつもりだよ」 「わかりました。なら……美笛さんのお世話になります」 「ああ、後は君たちで決めるといい……」 ――いずれにせよ……と言いながら旅掛は上条の横に座る17000号「御坂美笛」に目を向けた。 「『娘達』のことは、よろしく頼むよ」 上条も隣にいる彼女を見た。 上条の横に座っていた17000号「御坂美笛」は、上条と旅掛のやり取りを見ながら、顔を赤らめていた。 そして上条からの視線を感じたとたん、俯いてモジモジしはじめた。 それはまるで、王子様が、高い塔に閉じ込められたお姫様を救いにやってきた時であるかのように。 それを見た旅掛は「これは……予想以上か……参ったな……」と呟き、上条を見た。 上条は彼女の様子に、「うう……これは……不幸な予感が……」と呟き、頭を抱えるだけだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Time enough for Love
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/クリスマス狂想曲 12月24日 ――― 朝 とある友人たちとのメール ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 彼氏さん 本文:ゴメン。さっき読んだ。えっと、なんていうか、その、お付き合いしています(照) ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re すみません 本文:初春さんが佐天さんを連れて行ってくれて、正直助かった。ありがとう。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 明日のご予定は? 本文:ごめんなさい。さっきメールを読みました。折角のお誘いですが、今日は予定が入っちゃってます。本当にごめんなさい。湾内さんと泡浮さんによろしく。 ――――――――― From 佐天涙子 Subject:Re Re 彼氏さん 本文:お付き合いしてるんですね!優しそうな彼氏さんで羨ましいです!あー。でも、彼氏さんの名前聞きそびれちゃったなあ。じー。(期待の眼差し) ――――――――― From 初春飾利 Subject:Re Re すみません 本文:佐天さん暴走してましたからね(笑)そういえば御坂さんの彼氏さんのカミジョートウマさんってどう書くのですか? ――――――――― From 婚后光子 Subject:残念ですわ 本文:正直言いますとわたくしの連絡ミスですの。御坂さんには連絡したつもりでいましたのよ。お友達たちだけで過ごす初めてのクリスマスパーティーですもの。御坂さんはわたくしにとって真っ先にお誘いするに値する方ですから。来年は予約しておいてもよろしいかしら? ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re Re Re 彼氏さん 本文:上条当麻 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re Re Re すみません 本文:上条当麻 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 残念ですわ 本文:あー、ゴメン。来年も無理だと思う(汗) ――――――――― From 佐天涙子 Subject:昨日は 本文:上条さんに何か買ってもらったりなんかしちゃったのですか?お会いしたのアクセサリーショップでしたし。 ――――――――― From 初春飾利 Subject:もしよろしければ 本文:おふたりの馴れ初めなんて聞いちゃってもいいでしょうか? ――――――――― From 婚后光子 Subject:もしかして 本文:ご迷惑でした? ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 昨日は 本文:ペアリングを買ってもらった(照) ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re もしよろしければ 本文:えっと、わたしがスキルアウトを更正させようとしていたとき、わたしが絡まれてると思って勝手に助け出そうとしたのが彼。まあそれから色々あって、告白されました。(照) ――――――――― From 御坂美琴 Subject:そんなことない! 本文:婚后さんはわたしにとっても良いお友達です。でもね、あの、特別なイベントの日は、(他の人には内緒にして!)許婚と過ごしたいので(照) ――――――――― From 佐天涙子 Subject:Re Re Re 昨日は 本文:ラブラブですね御坂さん。いいなあ。うらやましいなあ。 ――――――――― From 初春飾利 Subject:Re Re Re もしよろしければ 本文:御坂さん。危ないことはしないでくださいって言ってるじゃないですか!そんな御坂さんを止めてくれた上条さんに感謝ですね。告白ですか?ど、どんな風に!?(ワクワク) ――――――――― From 婚后光子 Subject:許婚!? 本文:もしかしてお相手は海原さんですか? ――――――――― From 御坂美琴 Subject:恥ずかしいなあ 本文:スキルアウトの件はゴメン。えーっと、普通に『好きです、つきあってください』的な(照) ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 許婚!? 本文:何でそこで海原さんが出てくるの!?違うから!!わたしの許婚の名前は、上条当麻です(照) ――――――――― From 初春飾利 Subject:Re 恥ずかしいなあ 本文:わあ。情熱的ですね。うらやましいなあ。ところで、白井さんは上条さんのことをご存知でしょうか?今日、風紀委員で一緒になるんですが、もし内緒にしているのでしたら協力します。 ――――――――― From 婚后光子 Subject:失礼いたしました 本文:機会がありましたらご紹介いただけますか?御坂さんが選んだ殿方に興味がありますわ。きっと素敵な方なのでしょうね。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re Re 恥ずかしいなあ 本文:黒子にも言ってあります。えーっと、しばらく黒子が迷惑かけるかもしれないけど、よろしく。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 失礼いたしました 本文:えーっと、普通の高校生です。まあ、機会があったら紹介します。(照) ――――――――― From 初春飾利 Subject:お任せください! 本文:御坂さんと上条さんのデートの邪魔をしないように努力します! ――――――――― From 婚后光子 Subject:それでは 本文:近いうちに学舎の園の甘味処へ参りませんか?御坂さんの都合の良い日をご連絡ください。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re お任せください! 本文:ありがとう(照) ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re それでは 本文:了解。また連絡するね。 ――― 10:00 セブンスミスト前 青髪の少年と巫女装束が似合いそうな黒髪の少女は、ショッピングモール前のバス亭からショッピングビルへ向かって歩いていた。 青ピ「今日もええ天気やなー。ホワイトクリスマスは望めなさそうやけど、出かけるにはちょうどええなー」 姫神「でも空気が冷たいから。雪が降っていなくても長時間外にいるのは辛い」 青ピ「じゃ、とりあえず、中に入ろか」 姫神「うん」 ビルの中に入り、あてもなくぶらぶらとファンシーショップやアクセサリーショップの店先を冷やかす。 青ピ「姫神ちゃん。今日も付き合うてくれてありがとな」 姫神「別に。暇だったから」 青ピ「せや、姫神ちゃん。何か欲しいものある?」 姫神「んー。服とかはこの前吹寄さんと見にきたし」 青ピ「ひ、姫神ちゃん。男が服を贈る意味、知ってるやろ?」アセアセ 姫神「ん?服は見に来たばかりだからいらないってことなんだけど」 青ピ「どわぁ!今言ったこと忘れてや!」(何やってんのや!)/// 姫神「?」 青ピ「じゃ、じゃあ、アクセサリーとかは?」 姫神「んー。あんまりちゃらちゃらした物は着けたくないなあ」 青ピ「そ、そっか」 姫神「ピアスって。痛くない?」 青ピ「ボクはそんなに痛くなかったけど。姫神ちゃん、興味あるん?」 少女は自分の耳たぶを弄りながら首を傾げる。 姫神「やっぱりいいや」 青ピ「着けピアスってのもあるんやで?」 姫神「着けピアス?」 青ピ「粘着テープみたいので貼るやつ」 姫神「なんか。痒くなりそう」 青ピ「姫神ちゃん、肌弱いん?」 姫神「んー。どうだろ?」 青ピ「もし何か着けるとしても、無理にピアスやなくて、イヤリングで全然問題ないと思うで」 姫神「まあ。そうなんだけど」 青ピ「実はボクを見て、ピアスしてみたいとか思ってくれたとか?」 姫神「ピアス着けてるの。クラスじゃ青ピ君だけだしね。それから考えると。ちょっとは影響してるかもしれない」 青ピ「嬉しいわあ、ボク。…少しは期待してもええ?」 姫神「え?何を?」 青ピ「姫神ちゃんともっと仲良うなれるって思ってもええ?」 少年はまっすぐに少女を見る。心なしか頬が少し赤くなっているようにも見えた。 姫神「…少なくとも昨日よりは。仲良くなってると思うけど」 青ピ「え?」 姫神「そうじゃなければ。わざわざ待ち合わせまでして一緒に買い物なんて来ないし」 早口でそう言うと、少女はくるりと身を翻らせて歩き出した。 姫神「…減点かな」ボソ 青ピ「ちょ、待ってや。姫神ちゃん!?」 姫神「待たない」 青ピ「堪忍してや!姫神ちゃん!」(姫神ちゃんがボクに『減点』て、『待たない』って、なんやこれ!?) 少年が慌てて駆け寄ると、少女は口元を小さく綻ばせながら言った。 姫神「次はどのお店を見ようか?」ニコ ――― 10:45 第七学区 ゲームセンター ラヴリーミトンプリクラ内 美琴「じゃ、じゃあ、後ろから抱き着いてくれるかな?」/// 上条「こうか?」 少女の肩に顎を乗せ、腋の下に腕を通して少女のお腹の辺りに左手を置き、右手で自分の肘を掴む。 美琴「えへ。後ろから抱きしめられちゃった」/// 言いながら少女は少年の左手を自分の右手で押さえ、嬉しそうに微笑む。 上条「…ええと、美琴さん?」/// 美琴「どうしたの?」 上条「なんと言いましょうか、この格好はですね、いろいろマズイと上条さんは思うのですが」/// 美琴「少しの間だからいいじゃない。…イヤなの?」 上条「イヤじゃないけど…その」/// 美琴「なによ?はっきりしてよ」 上条「ええと…怒らない?」(後ろから抱きついてる俺の手を、自分で胸に押し付けてるのが判らないのかあああああ!!)/// 美琴「なんか変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」 上条「上条さん的には大変嬉しいことなんですけど、…お前が右手で押さえてるもの」/// 美琴「ん?アンタの手よね?」 上条「うん。で、俺の手は何を押さえてる?」/// 美琴「え?」 少女の右手は、後ろから回された少年の手の甲を上から押さえていて、少年の左手は、少女の右胸を包み込むような形になっていた。 美琴「あ、あぅ…」/// 上条「ほら、右手を離せ、離そう、離しましょう美琴センセー」/// 美琴「…このままでいい。後ろからぎゅってされてる写真欲しいんだもん」/// 上条「上条さんの理性が臨界点を超えそうですよ!美琴センセー」/// 美琴「ほ、ほら、カメラ見て、笑って」 ぎゅっと少女の右手が少年の左手を握る。 上条「お、おう…」(て、掌に柔らかな感触があああああ!!)/// フラッシュが光って撮影の終わりを告げる。だが、ふたりはそのまま動かない。 上条「ほ、ほら、終わったぞ?」 美琴「うん」/// 上条「離さないと、上条さん左手をにぎにぎしちゃいますよ?」 美琴「ふぇ!?」(に、にぎにぎって!?)/// 上条「だあああ!!右手を離しなさい美琴センセー!ホントににぎにぎするぞ!」/// 少女は慌てて手を離し、少年も速やかに戒めを解く。少女は自分を抱くように胸を隠しながら、キッと少年を睨んだ。 美琴「な、何言ってるのよアンタ!馬鹿!スケベ!」/// 上条「お、俺の手を胸に持っていったのはお前だぞ!」/// 美琴「だ、だって、…ぎゅってして欲しかったんだもん」ショボン 上条(そんな風に言われたら怒れないじゃないか)「…あー、ゴメン。俺が引っ張られるまま手を動かしちまったから触っちゃう形になったんだな」 美琴「え?」 上条「美琴も良く考えて行動するようにすれば、こういうことも減るだろ?」 美琴「う、うん」 上条「ってことで、この話題はこれまで。な?」 美琴「…なんか強引に纏められた気がする」 上条「あのな。折角のデートなのに喧嘩するのは嫌だろ」 美琴「まあ、そうだけど」 不満そうな少女の肩に手を置いて前に向かせると、少年は画面を指差して言った。 上条「ほら、じゃあ次のフレーム選ぼうぜ?」 美琴「…じゃあ、一番上のゲコ太とピョン子のやつ」 上条「俺が右、お前が左でいいのか?」 美琴「うん」 上条「これはどんな格好で?」 美琴「…また、ぎゅってしてくれる?」 上条「手、気をつけてな」 美琴「…別に当麻になら触られてもいいんだけど」/// 上条「いきなりそういうこと言わないの!」/// 美琴「なんでよ?」 上条「抑えがきかなくなるだろうが。美琴さんは自分の魅力についてもっと真剣に考えるべきだと思います!」 美琴「み、魅力?」 少女の後ろから抱きつき、手で自分の肘を押さえるようにして事故を防ぎながら、少年は囁いた。 上条「あんなこと言われたら止まれなくなるぞ。上条さん、健全な男子高校生ですから」 美琴「!?」/// 上条「こんなところでなんて、美琴も嫌だろ?誰が見てるかもわからないし」 美琴「うぅ…」 上条「まー、くっつきたいのは上条さんも同じだから、お互い注意しような」 美琴「うん。注意する」 上条「素直な美琴、可愛いな」ギュッ 美琴「ふにゃ!?」/// 抱きついたまま、少女の肩に顎を乗せて目を閉じる。 上条「あー、なんか安心する。ちょっとだけ、こうしててもいいか?」ギュッ 美琴「う、うん」(と、当麻がわたしに甘えてる!?)/// 上条(いい匂いだなー)ポー 美琴「ね、ねえ?そのままでいいから、一枚撮っちゃっていい?」 上条「別にいいけど、いい写真にはならないんじゃないか?」 美琴「わたしから見るとすっごくいい感じなのよ」(当麻が甘えてくれるなんてこの先あるかわからないし)/// 上条「じゃ、撮り終わるまでこのままにしてる」ギュッ 美琴「うん。ありがと」/// それから少なくとも五分もの間、ラヴリーミトンプリクラで撮影が行われることは無かったのであった。 ――― 11 30 セブンスミスト アクセサリーショップ 店先のショーウィンドウを覗き込み、青髪の少年は言った。 青ピ「お、この店、値段も手頃やし、デザインもええわあ」 姫神「ピアス?」 青ピ「うん。あの青い石が入ってるのなんて、いいと思わん?」 少年が銀色の台座に青いガラス球が埋め込まれているピアスを指して言う。 姫神「ピアス。髪に合わせてるの?」 青ピ「いや、別にそういうわけやないけど。シンプルでええなあと思って」 姫神「そっか。今。着けているのも青い石だから。髪に合わせているのかと思った」 青ピ「たまたまやで。まあ、確かに青は好きな色やけど」 姫神「私は。赤の方が好きかなあ」 青ピ「姫神ちゃん、赤、好きなん?」 姫神「んー。好きって言うかアクセントとしてはいいかなって」 青ピ「そっか。そっちにイヤリングあるで?」 姫神「どれどれ」 イヤリングに視線を移し、ピアスで見ていたのと同じようなシンプルなデザイン-クリップの前面が台座になっていて、そこにガラス球が埋め込まれている-のものを探す。 姫神「あ。これ良いかも」 そう言って少女が指したのは、クリップの前面に赤いガラス球が埋め込まれた金色のイヤリングだった。 青ピ「それ、気にいったん?」 姫神「うん」 青髪の少年は少女が指したイヤリングを見つめながら口を開く。 青ピ「…姫神ちゃんがよければ、それ、ボクにプレゼントさせてや」 姫神「え?」 青ピ「姫神ちゃんにクリスマスプレゼントを買うってのが、今日の目的やねん」 姫神「そうだったんだ」 青ピ「うん。その、迷惑やったらやめるさかい」 視線をイヤリングに落としたまま、少女は思案する。 今いるアクセサリーショップは学生をメインターゲットにした店のようで、値段的にも貰うのに抵抗があるというほど高価なものではない。 友達同士でアクセサリーをプレゼントし合えるような店だった。 姫神(…友達としてなら。貰ってもいいかな)「じゃあ。お言葉に甘えて」 青ピ「え?」 姫神「ありがとう」 青ピ「ホンマ!?すんませーん。このイヤリングください。あ、プレゼント包装で頼んます」 少年が店員を呼んだ後、少女は少し躊躇いがちに声をかけてくる。 姫神「青ピ君。ちょっと。席はすずね」 青ピ「あ、うん。ほな、ボク、一階の階段の前で待っとるから」 姫神「うん。じゃあ。後で」 青ピ「うん」 少女の背中を見送って、少年はひとつ大きな溜息をついた。 青ピ(とりあえず、受け取ってもらえるんやし、少しは期待してもええんかなあ?) ――――――――― 13 30 第七学区 スーパーマーケット内 ツンツン頭の少年の押すショッピングカートの籠の中に、茶髪の少女が食材を入れていく。 上条「あの、美琴センセー?」 美琴「ん。なーに?」 上条「なんか量が凄いんですけども」 美琴「シチューみたいな煮込み料理ってさ、たくさん作った方が美味しいのよ。それに、インデックスもたくさん食べるでしょ?」 上条「いやー、何か悪い気がして」 美琴「わたしが好きでやってるんだから気にしないの。それに、か、彼氏と過ごす初めてのクリスマスだし、気合入っちゃうんだから」/// 上条「上条さんは幸せ者です」/// 美琴「えへへ。他に何か食べたいものある?」 上条「ビーフシチューにポテトサラダにローストチキンがあれば十分だと思います。ケーキは店先で売ってたのでいいよな?」 美琴「さすがにケーキまで焼く時間ないしね」 上条「飲み物は…と、アレでいいか?ゲコ太のクリスマスオーナメント付いてるぞ」 そう言って少年が指差した場所に、サンタのコスチュームを着たゲコ太の絵が描かれたポスターが貼られているクリスマスカクテル(ノンアルコール)が置いてあった。 缶の上にプラスチックの蓋のようなものが被されていて、その中に入っているキャラクターのラベルが貼られている。 美琴「全六種か。買いね」 上条「味は三種類だから、それぞれ二本ずつ買おうぜ」 美琴「うん。…えへ。サンタピョン子可愛いなあ」 上条「…可愛いな」ボソ 美琴「ア、アンタもそう思う!?可愛いわよね!」(ついに当麻もゲコ太の良さに気付いてくれた!?) 上条「ああ。可愛いぞ。美琴」 美琴「ふにゃっ!?」/// 上条「思わず笑顔に見惚れてしまいました」/// 美琴「えへへ…」(可愛いって言われちゃった)/// 上条「美琴…」 美琴「当麻…」 見つめ合うふたりには、周囲など見えていないのであった。 ――― 14 00 第七学区 ファミリーレストラン内 青ピ「ボク飲み物入れてくるけど、姫神ちゃん、何にする?」 姫神「んー。ティーポットとダージリン。お願いしてもいい?」 青ピ「ええよ。ついでやし。砂糖とかはいる?」 姫神「いらない」 青ピ「ほな、ちょっと行ってくるわ」 姫神「うん」 青髪の少年はドリンクバーへと歩いていく。その背中に視線を送りながら黒髪の少女は小さく微笑んだ。 姫神(加点1かな) トレイの上にソーサーとティーカップ、ダージリンのティーパックを置き、ティーポットにお湯を注ぐ。 青ピ(これって、デートと思ってもええんかな?) ティーポットをトレイに載せ、コーヒーカップをドリップマシンに置き、ブレンドコーヒーのボタンを押しながら、青髪の少年は昨日の友人の姿を思い出していた。 青ピ(いやいや、カミやんみたいにラブラブなのがデートなんやろうな。ボクと姫神ちゃんはまだ、友達同士のショッピングってとこやね) 砂糖とミルク、ソーサーとスプーンをトレイに載せるのとほぼ同時に、ブレンドコーヒーが出来上がった。 青ピ(ま、カミやんは元から好かれてたっぽいしなあ)ハァ コーヒーカップをトレイに載せ、少女のいる席へと戻るために歩き出す。 青ピ(ちょっとは、仲良うなれたと思うんやけど) 席に戻りテーブルの上にトレイを置く。 青ピ「お待たせ。…ホンマに砂糖とか要らんかった?」 姫神「うん。ありがとう」 少女がティーパックの袋を取り出して、ティーポットの中に入れると、透明のお湯がたちまち琥珀色に染まっていく。 青ピ「なんか、一瞬で色が変わると感動するわあ」 姫神「ふふ。私もそう思う」 コーヒーに砂糖とミルクを落としてかき混ぜながら、少年はティーポット越しに少女を見る。 青ピ「…綺麗やな」ボソ 姫神「青ピ君。意外と詩人?」 青ピ「そうやなあ。ボク、ロマンチストやもん」 姫神「確かに。クリスタル細工を見て綺麗って言える男子って珍しいけど」 青ピ「綺麗なもんは綺麗って言っても、別に悪くないやろ?」 姫神「うん」 少女がティーポットを持ち上げ、ティーカップに紅茶を注ぐ。少年はそんな少女の顔に視線を向けて呟いた。 青ピ「…綺麗や」 姫神「ふふ。青ピ君も紅茶にすればよかったのに」 青ピ「…姫神ちゃんが、やで」 姫神「え?」 まっすぐに少女を見て、少年は言う。 青ピ「姫神ちゃんが綺麗やって、言ったんや」/// 姫神「私?」 青ピ「うん」 姫神「もしかして。からかってる?」 青ピ「ボク、本気やで」 姫神「…」 少女は胸元に右手を置き、服越しに十字架に触れる。 姫神「私は。別に綺麗じゃないと思うけど」 青ピ「それは謙遜やで。姫神ちゃん」 姫神「そうかな?」 青ピ「うん。姫神ちゃんは美人やし、魅力的な女の子や」 姫神「いきなりそんなこと言われても。困る」 視線をティーカップに落としながら、少女は言った。 青ピ「ゴメン。でも言いたかったんや」 姫神「どうして?」 青ピ「昨日と今日で姫神ちゃんとボク、少しは仲良うなれたと思ったんや。一緒にクリスマスオーナメント選んでもろうたり、プレゼント受け取ってもらえたり、食事したりして、姫神ちゃんと仲良うなれたと思ったんや」 姫神「…」 青ピ「そしたらな、ボク、馬鹿やさかい。舞い上がってしもうて、姫神ちゃんも同じ気持ちかと思うてしもうて」 姫神「…」 青ピ「今なら姫神ちゃんが綺麗やって、ずっと思ってたこと。伝えられるかなって」 姫神「青ピ君…」 青ピ「はは。なんかカッコ悪いなあボク」 姫神「…そんなこと。ないよ」 そう言うと少女は横に置いてあるバッグから何かを取り出し、掌に載せて少年へと差し出す。 姫神「これ。クリスマスプレゼント」 青ピ「…ボクに?」 姫神「うん」 青ピ「開けてもええ?」 姫神「うん」 袋を開けて小箱を取り出し、小箱の中身を見て少年は目を見開いた。 青ピ「え!?これ…」 小箱の中にあったのは赤いガラス球が嵌め込まれた金色のピアスだった。少年が少女に贈ったイヤリングと同じデザインである。 姫神「…一応。お揃い」 青ピ「そ、そやな」 姫神「それだけ?」 青ピ「いや、いきなりやったから、なんて言ってええか判らなくて」 姫神「困るでしょ?さっきの私と同じ」 そう言って少女は小さく微笑む。 青ピ「姫神ちゃん…。ボク」 少年が何か言おうとするのを、少女は自分の唇に人差し指を縦に当てる仕草で止めた。 姫神「今はまだ。友達でいた方がいいと思う」 青ピ「姫神ちゃん…」 姫神「雰囲気に流されているだけかもしれないし。お互いをもう少し知ってからの方がいいと思う」 青ピ「ボクはクリスマス前から…」 姫神「見た目だけじゃわからないし。私のこと知って欲しいし。…青ピ君のこと知りたいし」 少年が何か言おうとするのを少女は言葉で遮った。最後の方はほとんど聞こえないほど小さな声で。 姫神(そんな急になんて。切り替えられないし) ――ただのクラスメイトからいきなり恋人というのは無理がありすぎる。順番的にもまずは友達から。うん。別に変じゃない。はず。 姫神「とりあえず。連絡先交換しよう」 青ピ「ええの?」 姫神「うん」 少女はバッグから携帯を取り出し、赤外線データ受信モードに切り替える。 青ピ「ほな、送るで?」 姫神「…受信完了。じゃあ次は私が」 青ピ「っと、準備OK」 姫神「じゃあ送信」 青ピ「…姫神ちゃんのアドレスゲット。ボク、感激やわ」 姫神「それは。大げさ」 青ピ「大げさやないんやけどなあ」 姫神「そう言ってまた困らせる。…減点1」 青ピ「また減点!?てかそれって何の点数なん?」 少女は少年を見ると、自分の顎に人差し指の先を当てて小さく微笑んだ。 姫神「青ピ君の点数。かな」 ――― 14:30 風紀委員第一七七支部 固法「ねえ初春さん。白井さん、どうしちゃったの?」 初春「し、白井さんがどうかしましたか?固法先輩」 固法「何か元気が無いのよね。上の空って言うかなんて言うか…」 初春「あー。たぶん御坂さんが原因です」 固法「御坂さんが?どういうことかしら?」 初春「固法先輩、白井さんが御坂さんを慕っているって知っていますよね?」 固法「ええ、まあ」 ツインテールの少女がルームメイトで同じ学校の先輩である御坂美琴のことを、様々な意味で慕っているのは知っている。 初春「昨日、私は非番だったので、佐天さんと一緒にセブンスミストへ行ったんですけど、御坂さんとお会いしたんですよ」(本当は佐天さんの案で御坂さんを探しに行ったんですけど) 固法「あなたたち、本当に仲がいいわね」 初春「あはは。まあ、そのときですね、御坂さんは一人じゃなかったんです」 固法「白井さんはそのとき巡回中だったから、白井さんじゃないわよね?」 初春「ええ。御坂さん、彼氏さんと一緒だったんですよ」 固法「え?」 初春「御坂さんは彼氏さんと一緒にセブンスミストに来ていたんです」 固法「か、彼氏?御坂さんに?」 初春「はい。手を繋いで名前で呼び合ってました」(ホントは佐天さんが呼ばせたんだけど)「御坂さんも彼氏って紹介してくれましたし」 固法「へえ。御坂さんやるわね。じゃあ白井さんの様子がおかしいのは、御坂さんに彼氏ができたからなのかしら?」 初春「おそらくは。と言うかそれしか考えられないですね」 固法「最近の中学生は進んでるわね」 初春「あ、御坂さんの彼氏さんは高校生ですよ」 固法「いったい、どういった経緯で知り合ったのかしらね?ちょっと興味あるわ」 初春「御坂さんがスキルアウトを更正させようとしていたときに、スキルアウトに絡まれていると思って助けに出そうとしたのが彼氏さんで、それからみたいですけど…」 固法「まったく、御坂さんてば。危険だって言ってるのに。今度会ったら釘を刺しておかないと」 初春「私も注意したんですけどねー。あ、彼氏さんから言ってもらえば良いのか。御坂さん、彼氏さんの前だとすごく可愛かったし」 固法「機会があったら御坂さんの彼氏に注意してもらいましょう。…それで、御坂さん、どんな風に可愛かったの??」 初春「もじもじして上目遣いで彼氏さんのことを呼んだりとか、嬉しそうに寄り添ってたりとか」 固法「み、見てみたい気がするわ。そんな御坂さん」 初春「あはは。そのうち街で見ることができますよ。きっと。ラブラブでしたから」 風紀委員といえども年頃の女の子。まして知人の恋愛事情となると、知らず知らずのうちに話が盛り上がってしまうのであった。 ――― 15:00 とある高校男子学生寮の一室 美琴「当麻。意外と器用ね」 上条「ふっ。上条さんの料理スキルを侮ってもらっては困ります」 美琴「普通に包丁で皮を剥けるのには驚いたわ。授業でも普通はピーラー使うし」 上条「何かあれ苦手なんだよな」 美琴「慣れればピーラーも具合いいわよ」 上条「まあそうなんだろうけど」 美琴「ふふ。でもこうやって一緒に料理するなんて、考えたことなかったわ」 上条「そういえば、夕飯作ってくれた時って、台所に入れてくれなかったよな?どうしてだ?」 美琴「あ、あの時は付き合ってなかったから、一緒に料理なんてできるわけないじゃないの馬鹿!」 上条「なんでだよ?」 美琴「ここ狭いじゃない。…アンタと肩とか手なんか触れちゃったら料理なんてできないって思っちゃって…」/// 真っ赤になって視線を逸らすと、少女は恥ずかしそうに身を捩った。 上条「そ、そっか。いや、なんていうか、ゴメン」 美琴「…何で謝るのよ」 上条「いや、そこまで惚れられてたのに、全然気づいてやれなくてさ」 美琴「本当よ。苦労したんだから」 上条「悪い」 美琴「…でも、今こうして当麻と一緒に居られるから、いいんだ」 上条「俺も、今こうして美琴と一緒に居られるのは嬉しい」 美琴「ホント?」 上条「ああ」 美琴「ねえ、当麻。ちょっと困ったことになっちゃったんだけど」ウワメヅカイ 上条「どうした?」 美琴「料理中なんだけどさ、ぎゅってして欲しくなっちゃった」エヘ 上条「そ、そっか。…じゃあ、とりあえず鍋に水を入れて、切った野菜をその中に入れて…と」 美琴「ちょっと、何スルーしてるのよ」 上条「…こいつをコンロにかけて…と」 美琴「…馬鹿」シュン 上条「…よし、お次は、ぎゅー…と」ウシロカラ ダキツキ 美琴「ふぇ!?」/// 上条「お求めはこちらでよろしかったでしょうか?姫」ギュッ 美琴「うん。…ありがと」 上条「どういたしまして」 美琴「ね?お鍋が煮えるまで、このまま?」 上条「お望みのままに」 美琴「じゃあ、このままで」 上条「ああ。わかった」 ――― 19 30 とある高校男子学生寮の一室 上条「片付け終わったぞー」 美琴「お疲れ様」 台所からリビングへと戻ると、少年はテーブルの上で何かを弄っている少女の前に座る。 上条「何してるんだ?」 美琴「ふふ。ゲコ太もピョン子もケロヨンも可愛いわ」ニヤニヤ 上条「ホント好きだな」 美琴「当麻もこの良さが判ってくれると嬉しいんだけどなー」 上条「いや、男子高校生がそういうのを前にしてニヤニヤしてたらやばいだろ。常盤台のお嬢様がニヤニヤしてるのもアレかもしれないけどな」 美琴「べ、別にいいじゃない!誰かに迷惑かけているわけじゃないんだし!」 上条「まあ、俺の部屋とか自分の部屋ならいいけど」 美琴「じゃあ問題なし」 上条「ま、そうだな」 少女は六種類のクリスマスオーナメントを弄びながら、そのうちのひとつ、クリスマスツリーの下にゲコ太とピョン子が立っているものを手に取った。 美琴(…そうだ。これをあの紐に掛ければ) 立ち上がると、頭の上にあった部屋の蛍光灯の紐に手に持っていたクリスマスオーナメントを結んで再び腰を下ろす。 美琴「えへ。一応、クリスマスツリー。机の上に立たなから結んじゃった」 上条「お。いいんじゃないか」 美琴「食べる前に気付けば良かったんだけどねー」 上条「いやいや、充分すぎるほどクリスマスしてました。ホント、美味しかった」 美琴「良かった」 そう言って小さく微笑むと、少女は真っ直ぐに少年を見て、先ほど結んだクリスマスオーナメントを指差した。 美琴「あのさ。これ、クリスマスツリーってことでいい?」 上条「ん?いいと思うぞ」 美琴「じゃあさ、ツリーの下に女の子がいるんだけど、当麻は何もしないの?」 上条「どういうこと?」 美琴「…ヤドリギなんだけど」 上条「ヤドリギ?」 美琴「もしかして知らない?」 上条「…悪い」 美琴「別に謝らなくていいんだけど。えっとね、クリスマスの日、ツリーに飾られたヤドリギの下に居る女の子には、キスをしていいことになってるのよ」/// 上条「え?」 美琴「もちろん、女の子に断られたらしちゃ駄目だけどね。はい。説明終わり」 上条「ええと、…つまり、美琴さんはその…?」(キスしてもいい…のか?) 顔を赤くする少年を上目遣いで見ながら、少女は小さく言った。 美琴「…当麻なら、その、断らないわよ」/// 上条「そ、そうか」 ごくりと唾を飲み込んで少年は立ち上がると、少女の前へと歩いて行き、その肩に手を置く。 上条「いいんだな?美琴」 美琴「…」 返事の代わりに少女はゆっくりと瞼を閉じた。 上条「…」 美琴「…」 柔らかな感触がお互いの唇を刺激する。軽く触れるだけの優しいくちづけ。 美琴「…えへ。ファーストキス」(夢、じゃないよね?当麻、キスしてくれたんだよね?) 上条「上条さんもファーストキスですよ」(夢、じゃないよな?美琴とキスしたんだよな?) 美琴「そっか。嬉しいな」(もう一回、したいな) 上条「美琴…」(可愛いな。美琴) 美琴「お返し、するね」(いいや、わたしからしちゃえ) 上条「…んぅ!?」/// 美琴「ん…」チュッ 先ほどの触れただけのものとは違い、少し唇を吸ってみる。言葉に言い表せない気持ちが少女の中を走った。 美琴(ちょっとだけ、当麻を奪ったような気がする)/// 上条「…美琴」(俺も…) 美琴「んっ!?」 上条「…」チュッ 少女がしたのと同じように、軽く唇を吸う。蕩けそうな感覚が少年を襲う。 美琴(こ、これって、奪われてる感じがする)/// 上条「…ヤバイな、コレ。止まらなくなりそうだ」/// 美琴「…もう一回だけ」チュッ 上条「…ん」チュッ しばらくの間、お互いに唇を吸い合う。しばらくしてから名残惜しそうに唇を離すと、少年は少女を抱きしめた。 上条「好きだ。美琴」 美琴「わたしも好き。当麻」 上条「キスでこんな気持ちになれるって、凄いよな」 美琴「うん。キスって凄いね」 上条「こんな気持ちになれるのは、美琴とだから。…美琴とだけだから」ギュッ 美琴「わたしも、当麻とだけだから。当麻じゃなきゃこんな気持ちにならないんだから」ギュッ 上条「ありがとう。美琴」 美琴「ありがとう。当麻」 お互いに素直な感謝の気持ちを伝えると、なんだか可笑しくなってきて、気が付くとふたりで顔を見合わせて笑った。 上条「なにやってんだろうな、俺達」 美琴「ホント。でも、素直に言いたいこと言いあえるのって、嬉しい」 上条「ん。そうだな」 美琴「だから…、ねえ?…もう一回、しよ?」 上条「み、み、み、美琴センセー!!その言い方はエッチすぎます」/// 美琴「エ、エ、エ、エッチってどういうことよ!?」/// 上条「アレのおねだりにしか聞こえません…ハイ」/// 美琴「ア、ア、ア、ア、アレって何よ!?」/// 上条「えーっと…、エッチの最終段階?」/// 美琴「ど、ど、ど馬鹿ああああああっっ!!」/// 上条「あーもー!!男子高校生の性欲舐めるなって言ってるだろうが!」/// 美琴「あ…う…。と、当麻は、その、わたしのこと、そういう目で見てくれてるんだ?」/// 上目遣いの少女の言葉に、少年はビクッと身体を震わせた。 上条「お前…それ、反則」(可愛すぎるんだよお前) 美琴「え?何か言っちゃいけないこと、言った?」 上条「…もう喋らないようにその口を塞ぐことにする」 美琴「え!?…んむっ!?」/// 唇を重ね、舌先で相手の唇を軽く舐めながら少しづつ差し込んでいき、湿った場所に触れる。 上条(これって美琴の…) 御坂(し、し、舌!?いわゆるこれって大人のキスってやつ!?てかわたしもしないと!?)/// ぬるっとした感触がお互いの舌先に触れた瞬間、ふたりはほぼ同時に唇を離した。 上条「わ、悪い」 美琴「わ、わたし、舌出しちゃ駄目だった!?」 上条「え!?いや、その、イヤじゃなかったか?」 美琴「こ、こ、恋人のキス…でしょ?イヤじゃない、わよ?」 上条「いや、もう、でも、その…」/// 美琴「今度は、わたしが塞いじゃおっと♪」 上条「んんっ!?」/// 美琴(い、入れちゃっていいのかな?いいよね?)/// 上条(なにこれ!?なにこれ!?舌、シタ、したぁぁぁ!?)/// 美琴(あ、歯だ。この下が…舌よね?)/// 上条(舐めていい、のか?やべ、ディープキスってやつかこれ?) 美琴(やだ、唾が垂れそう。…ええい吸っちゃえ)チュル 上条(やべ、吸いたい。いいか。吸っちまえ)ジュル 最初はぎこちなく、徐々に大胆にお互いの舌を絡ませながら、ふたりはその行為に没頭するのであった。 ――――――――― 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/クリスマス狂想曲
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の告白成就 <新訳・第1章 上条当麻の決意> (こんどは…なんだ……) 気が付くとまた、俺以外何もない空間へと辿り着いていた。 変わったことといえば、今度の夢は世界そのものがひどく漠然としていた。 そして、どこか懐かしく、優しく、暖かな光が俺を包み込んでいた。 (――どうやらここが終着点のようだな…、俺が、アイツと一緒に夢見てた幻想の…) 上条はインデックスの言葉を聞いて何もかも思い出したのだ。 美琴との思い出、上条からの告白、常磐台に行った理由、風紀委員の支部に行った理由 ――そして、美琴に完全に拒絶されてしまったことも。 (…もう、何もかもどうでもいい) そういう後ろ向きな思考だけが俺を支配していた。 ・ ・ ・ ・‥…ーー━━☆ そんな俺の目の前に、突如として『星』が出現した。 (なっ、何だ!コレは) 『星』はお先真っ暗な上条という一隻の舟が、彼の悲願(彼岸)たる一つの港に到着したときの印、 俗に言う『澪標(みをつくし)』に到達したことを想起させるように、小さいながらも身を尽くして懸命に輝いていた…。 ―――― ――― ―― その光の元を辿っていく。 そこに現れたのは、可愛らしい少女であった。 彼女の姿形が分かる距離まで歩み、見てみると、どこか見覚えのある幼い娘であった。 そして、今度ははっきりと聞いてみた。 「…こんな何もないところで、何してるんだ?」 「…お星様を描いてるのよ」 そんな返事が聞こえてきた。 彼女は先程の『星』をなぞるようにこの空間に同じものを何百個も描いていた。 「…さっき泣いていたのは、ひょっとして君だったの?」 「私は泣いてなんかいないよ、泣き虫なんて大っ嫌いよ! …でもこれから、一杯嫌なことがあるけど…決して泣いたりなんかしないもん」 …どうも要領を得ない。そして次の質問が頭に浮かばない。 そんな上条は、本当に楽しそうに描いている彼女の横顔をただ見つめることしかできずにいた。 ◇ 「よ~し、終わったよー。最後まで付き合ってくれてどうもありがとう! お礼に素敵なプレゼントを送りたいな♪受け取ってくれるよね?」 「…ああいいぜ、受け取ってやろうじゃねえか」 「良かった…。それじゃいくよ、それっ!」 彼女の合図から始まり、奇妙な姿勢で軽やかに歌って踊り出した彼女に同調するかのように、 辺り一面へと彼女の描いた星の光が、上条にとっての「常世の闇」を照らし、満ち溢れていく。 その光景はあたかも宇宙が誕生して間もないころの原始の光であった。 (これは、スゲェな!…ファンシー系が好きだったあの御坂は、きっと大喜びだろうな) ・ ・ ・ …やがて光は消えていき、また闇が戻ってくる。 「ん、もうおしまいか?素敵なプレゼントってのは?」 ――― もう隠す必要も無いでしょう。あなたは知っているのでしょう?…私が誰なのか? 気が付けば、少女は俺の隣から消えて辺りを埋め尽くす闇に溶け込んでいる。 少女の声もいきなりどこか無機質なものに変わった。 その声にも聞き覚えがあるような気がしたが、どこで聞いたのかまではやはり分からない。 …でも、彼女はどうやら俺の心の奥深く、『絶対的意識』の中に常に存在するようだった。 だからその声を聞いてようやく答えが出た。 「俺がさっきまで見てた夢の、そのまえ――最初に何度も夢の中に出てきた奴だろ?」 ――― はい。あなたならば、その答えが返って来ると思っていました。 もうじき『私』は、「この場所」から一歩も動けなくなるでしょう。 だから私はある者の『影』として、こうして時代という境界を超えて現出しています。 「…さっきの話もそうだが、いまいち要領を得ないんだけど…」 ――― 説明している時間がありませんので、次へと進ませていただきます。 ――あなたが先ほどまで忘れていて、今も後悔している『あの少女』のことについてです。 俺はその言葉に反応する。 「…御坂のことか?一体何を話そうっていうんだよ…俺はもうアイツに嫌われちまったんだぞ? 確かに後悔してもしきれないが……運命がそう決めちまったんだ」 ――― …そんなことを他でもないあなたが言わないでください。 あなたは一度、偽りの幻想から私を救ってくれたではありませんか?彼女のことは諦めてしまうのですか? 「私を救ったって、…俺は夢の中でしかオマエに会ってないんだぞ?」 と、自分で言ってハッと気付いてしまう。 夢の中で彼女が身近にいる誰かのように思っているのは、他でもないこの俺だが……記憶は別なのだ。 今の上条はどういうわけなのか、前世である『記憶をなくしたはずの少年』の記憶を受け継いでいる。 もしかしたら、彼の記憶の根幹に関わる身近な人なのかもしれない。 そして俺はある一つの結論を出した。 「ひょっとして…インデックスなのか?」 ――― はい。…ですが、正確には違います。『禁書目録』は謂わば、わたしの生き写しです。 本当の私はとうの昔に、彼女を産み落として亡くなっています。 どうやら目の前にいる彼女は、自らの過去について語るらしい。 ◇ ◇ 彼女…名前がないので適当に付けた「エル」は、まるで神話の世界にいたかのように、こう語っていた。 「エル」は文学や天体の知識に詳しく、魔術の才能に満ち溢れた少女であった。 そして若いころの彼女には生まれも育ちも同じ、愛しい少年がいた。 その少年は卑しい身分の者であったが、大きな夢を持ち、そのためには如何なる苦労をも惜しまなかった。 やがて多くの者が彼の熱意に触れて、彼を中心として神々に対抗し、ついに彼等は勝利を収めた。 ――だがそれは本来、存在し得ない歴史の流れだった。 躍起になった『神』は彼の拠り所であった少女「エル」を、自分の物にしようとして彼にとある試練を与えた。 彼には神様に対抗できるだけの力がなかったが…それでも、「エル」を神々からの呪縛から解き放とうとした。 しかし、あと一歩まで迫った彼が記憶を消されてしまったことで、「エル」は神様の子を産む結果となったと言う。 「その子供が…インデックスってことなのか?」 あまりにも馬鹿げている話である。神様は二人の強い結びつきを、記憶を消す形で踏みにじったのである。 そしてインデックスが産まれてきて間もなく、彼女は不治の病にかかってしまう。 元から無理な出産だったのだ。「エル」自身も彼女と同様に自らの死を覚悟していた。 だが「エル」は、産まれてきた『自分』の子供の輝かしい未来を、いつまでも見ていたいという強い気持ちがあったらしい。 そこで、その時代・その分野において最も秀でた才能を持つ魔術師に頼み、困惑した魔術師も承諾する。 そして彼女の病を治す形で、「エル」はインデックスに乗り移った。 ――『自動書記(ヨハネのペン)』である。 また、その魔術師は交換条件として『天上の意志に辿り着く』インデックスを自分の養女として迎え、 自身が研究を進めてきた能力開発の第一号にすることを要求し、苦悩の末に「エル」はその条件を飲んだ。 …結果は怖ろしいものであり、魔術を自由自在に使いこなす才能にも恵まれた「エル」が乗り移ったためなのか、 インデックスは古今東西の魔道書を記憶し、その魔術師の力をも上回る正真正銘の『神』の領域に達した。 だから「エル」を封印する形で、インデックスの本来の記憶が消されていたのだ。 ――― しかし、あなたが彼女と私を救ってくれたおかげで、私はこうしてあなたの前に現れることができました。 それに過程はどうであれ…『神の如き者』のおかげで再び現出することができた私は、 このことを彼女に教えてあげることもできました。 「えっ…それじゃ、」 ――― はい、彼女の記憶は戻っていますよ。記憶を消される前の私たちの記憶や 仲睦ましい二人の魔術師、彼等以外の彼女を見初めていた人たちとの大切な思い出も…。 良かった。本当に良かった…。 そう思っているのは俺ではない、記憶を失った少年だったのかもしれない。 知らぬ間に目からは一筋の涙が流れていた。 ◇ ◇ ◇ ――― 『禁書目録』は、立派なシスターです。彼女は神の子でありますが、同時にこの時代における平和の象徴でもあります。 もしあなたが彼女を助けていなかったら、あなたは今頃彼と同じ運命を辿っていたのかもしれません。 「…どういう意味だ?」 ――― あなたが最初に彼女を助けていなかったならば、私もこうして過去の記憶を取り戻すことはありませんでしたし、 何より私が、これからあなたに『正解の道』を示すことができるのですから。 あなたを愛し、あなたが愛する少女と私は、同じ運命にあるのですから…。 「…ようやく本題ってことか。でも御坂も神様に愛されているってどうして言えるんだ? 確かにここんところのアイツのツキは異常だが…それだけじゃないんだろ?」 ――― 確かに、私も神に愛されてからというもの、強運に恵まれました。 ですが、私の言う問題は他にあります。あなたは神に対抗し得る力を、ついに手に入れてしまいました。 ―――それは私の愛した人が望んだ力でもあるのです。 「つまり、ソイツと同じように記憶を消されかけた俺は、今神様の試練の前にいるっつうことか? …んでもって俺の右手にある『幻想殺し』も、その神に対抗するだけの力を持っているのか?」 上条はここまで話の筋が合っている、彼女の言うことならば嘘はないと信じる。 ――― 察しが良くて助かります。少し違いますが、そう思っていてくれて構いません。 ――『現世(うつしよ)は夢、夜の夢こそ真実(まこと)』 あなたが見た夢は現実のものとなりますが、悲観することはありません。私の彼も通った『正解の道』です。 しかし、あなたが彼女のことを強く思っていなければ、より強い結びつきがなければ、 今度こそ記憶を失うことになります。あなたにそれだけのモノや覚悟がありますか? 「…ああ、俺にはある」 上条の携帯には、美琴からもらったゲコ太ストラップがある。 かつて一度だけ自分の手から離れてしまったその装飾品は、 北極海を彷徨って、もう一度奇妙な偶然で美琴の手から俺の手に戻ってきたのだ。 これ以上の結びつきがあるはずがない。 ――― そうですか。…もしそれですら駄目なときでも、その右手のおかげで、あなたは正解にたどり着けるでしょう。 上条はその言葉に小さく頷く。自分の右手を強く握り締めて。 そして、上条の前に一本の道が現れた。 ――― …この道を辿っていけば、もう帰ってこれないかもしれません。 でもそれは、さっきのあなたのように過去に囚われることの無い、とても幸せな未来。 ――私たちのずっと思い描いてきた未来、『誰一人悲しむことのない世界』が実現する未来につながっています。 「…そんな大切なものを、俺にくれるっていうのか?」 彼女は小さく首を横に振った。 ――― いいえ、この道の先にあるのは、あなた方が創る、最も輝かしい未来でもあります。 あなたが自らの意志で歩んでいく道なのです。…夢の叶わなかった私がその未来の顛末を決めることはできません。 「…そうか」 歩み出そうとした足を一端止めて、上条は改めて彼女に聞く。 「でも、…オマエはそれでいいのか?」 ――― ……いいのかもしれません。 「…どうして、運命の赤い糸で結ばれていたオマエ達が、こんな不幸を背負わなきゃいけないんだろうな」 上条はしばらく上を向き、彼女の苦労を嘆くよう天に睨みつけていた。 そして、おそらく自分の右手が『運命の赤い糸』を打ち消すということも神の仕業のように思えてきた。 ――― でも、いいのです。こうして何千分…いえ、何十億分の一の確率で再び巡り合うことができたのですから。 「……へっ?…ひょっとして俺なの?」 ――― ふふっ、いいえ違います。彼は生まれ変わっても私と、私の生き写しである禁書目録と、今は一緒にいてくれています。 …それだけで、私はとても幸せです。 「…」 上条はしばらく黙り込み、後で大きく頷いた。 「――じゃあ、俺行くわ」 上条が一歩ずつ前に進んでゆき、後ろを振り返らずに手を振った。 振り返らずとも分かる。 彼女は嘘をついていた。――さっきまで泣いていたこと、…今も泣いていること でも本当は、彼女は嘘をついていない。――もうあの夢で見た少女は『死んだ』のだ、 …それでも今は、笑顔を浮かべて『嬉しい』から泣いているのだ だから上条は振り向かない。立ち止まれない。 彼女の見たかった世界をこの手で掴もうという決意を抱き、上条はまた歩み出す。 ― ―― ――― 夢から覚めた俺に先程の症状はなく、起き上がった俺にインデックスが抱きついてきた。 どうやらずっと魔術を行使して看病していたらしい。 「…ただいま」 「ヒグッ…エグッ…うん、おかえり…とうま」 汗が滲み出る程にまで詠唱を繰り返していたインデックスの瞳に大粒の涙が浮かんでいる。 「それから、インデックス。ごめんな、ずっと気付いてあげられなくて」 「…うん、でもとうまは悪くないよ。わたしもやっぱりとうまと同じで、本質は何も変わらなかった。 多分『前のとうま』でもね、ちっとも分からないんだと思うよ。だから、そんなこと言わないで。 私はいっぱい泣いたから…、夢の中でいっぱい泣いたから…」 「…」 「さっきも言ったけど、…わたしはもうここから一歩も動けない。 魔術もね、さっきので限界まで使い切っちゃった。」 「…」 「ほんとはね、わたしもみことを救いたいんだよ! みことはわたしが泣いてたとき、わたしを、優しく抱きしめてくれた…。ほんとのお母さんのように…。 あのとき、どんなに救われたか。 …今度はみことが泣いている。 だからお願い…とうま、わたしの思いも持っていって!みことを救ってあげて!!」 先程のエルの話から推測して、正義感の強い美琴は 俺に辛い目を合わせないために、俺から距離を置くなんていう『絶対にできない』嘘をついたのだ。 そして知った。今は助けを求めている。頼ってくれている。 だから何としてでも救い出す…今なら間に合うのだ。 いや、間に合わせる! 「…分かった、インデックス。お前の分も、俺は諦めない。忘れてやるもんか! 絶対にアイツが囚われている幻想は、この俺が跡形も残さずぶち殺してやる!!!」 ――そして、俺と神様との壮絶な戦いの火蓋が切って落とされる! 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の告白成就
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/消えゆくあいつの背中を追って 美琴は病院へと戻り、上条を治す準備が出来たとカエル顔の医者に報告した。 カエル顔の医者は突然の美琴の報告に驚いたが、美琴から事情を聞くと納得し(テスタメントという単語を出たときは渋面を浮かべていたが)、 念のために美琴が知識を得られているかのいくつかのテストを行った後、上条を治すための手術を開始した。 手術中、美琴は能力を使って上条の神経を隅々まで調べ、異常になっている部分を修復していった。 少しでも加減を誤ると致命的な事態になってしまうのだが、美琴は十分すぎるほどの集中力を発揮し、問題なく手術は進んでいった。 治療が後半に差し掛かったとき、カエル顔の医者が美琴を制止した。 「今日はここまでだね」 「えっ? でも、まだ終わって……」 「今の状態でも当分は安全だよ。それより、君は自分の状態を把握できているのかい?」 「状態……?」 美琴は一瞬カエル顔の医者が言っていることの意味がわからなかった。 しかし、一度手をとめて気を緩めた瞬間、強烈なめまいに襲われる。 「あれ……?」 「神経を使う作業だからね。君が思っている以上に疲労が溜まっているようだ。 このままでは治療にも影響が出そうな雰囲気だったね?」 「そんな……。すいません、気が付かなくて……」 「いいや、君は本当によくやっている。気にする事はないよ。 とにかく、今日はここまでだ。続きは明日にしよう。 それまで君は体を休めているといい」 「はい……」 手術が中断された後、上条は病室へ移された。 上条はしばらくの間眠っていたが、その間に、その部屋には彼を心配する人々が集まっていた。 見事なまでに女性だらけであり、美琴はやや離れた部屋の入り口付近で、若干引き気味でその光景を見ていた。 「う、う~ん」 上条が目を覚す。 美琴は上条に声をかけようとしたが、それより前に、白い修道服を来た少女が上条に飛びついた。 「とうま!」 上条は突然の事に驚き、その少女、インデックスを落ち着かせようとしていたが、 インデックスは上条に抱きついたまま動こうとはしなかった。 美琴はその光景をしばし呆然と眺めていたが、様子はそのまま変わらなさそうだったためか、 ふらりと部屋の外へと姿を消した。 その後、上条はインデックスと後続で飛びついてきた女性達をなんとか引き離し、自分の体を状態を調べていった。 以前の症状が嘘のように、自由に体を動かすことができる。 「……俺は、治ったのか?」 上条の問いにカエル顔の医者が答える。 「これで、半分といったところだね」 「半分? ……ってことは、まだ」 「そうだね。一応、君の体は以前のように動かせるようになっているはずだよ。 ただ、このままだといずれ、症状が再び進行してしまうね」 「そうですか……」 「心配しなくていいよ。半分と言っただろう? 明日の残り半分で、君を完治させてあげられるね」 その言葉を聞き、安堵する上条。 そこへインデックスが割り込んだ。 「どうしてとうまは半分しか治ってないの?」 「彼の治療はなかなかに気の長い作業になってしまっていてね。 御坂君の負担を考えると1回でというわけにはいかなかったんだ」 「御坂……あれ、そういえば、御坂は? さっきまでいたよな?」 上条は目を覚ました時、部屋の中に美琴がいたことを確認していた。 治してもらったお礼を言おうとして、再度部屋の中から美琴の姿を探したが、そこに彼女の姿は無かった。 「先生、御坂がどこいるかわかりませんか?」 「いつの間にか部屋から出て行ったようだね。今彼女がどこにいるかはわからないが、 明日に備えて彼女もここに泊まることになっている。彼女が泊まる部屋に行けば会えるんじゃないかね」 それなら後で礼を言いに行こうと思い、上条はカエル顔の医者から、美琴が泊まっている部屋の場所を聞いた。 ----- 美琴は自分の寝室として貸し出された病室で、ベッドに腰掛けていた。 「はぁ……どうしちゃったのよ、私」 美琴の脳内に先ほどの光景が蘇る。 白い服を着たシスターが上条に抱きついている、その光景を見たとき、美琴は胸に鈍い痛みが走った。 そして気がついたら、いつの間にかここに逃げ込んでいた。 「なんでこんなにモヤモヤした気分になってんのよ……」 そのときからずっと、胸騒ぎのような、不思議な感情が収まらない。 ただ、美琴にはその感情がどういうものなのか、理解ができなかった。 美琴はふと、とあるメモを持ち出し、その中身を確認する。 それは、 学習装置《テスタメント》で知識を得る前に作成した、記憶を失っていないかどうかのチェックリストだった。 その中の一つに目が留まる。 『上条当麻を助けなければいけない理由は何?』 「私がアイツを助けなきゃいけないのは、妹達を助けてもらったから。 ううん、それ以前に、目の前で死にそうになってる人を放っておけないし……」 一度目を通した時は、それが正解だと思っていた。 しかし、改めて考え直してみると、何か間違っているような気がする。 ひょっとしたら、何か重要な事を忘れてしまったのではないか。そんな不安がよぎる。 美琴の胸の中のモヤモヤは、次第に大きくなっていった。 突然、美琴のいる部屋のドアが開く。 「よっ、今いいか?」 入ってきたのは上条だった。 「アンタ……ノックくらいしなさいよね」 上条の突然の訪問に、美琴は呆れたように返事を返した。 「お見舞いに来てくれてる人たちの相手しなくていいの?」 悪意を込めたつもりは全く無かったはずなのだが、どこかトゲトゲしい口調になってしまう。 「今日のところは、もう帰ってもらったよ」 「……そう」 「御坂、お前にはほんとに世話になった。感謝してるよ」 「……アンタには、でっかい借りがあったから。それを返しただけよ」 「んなことはねえよ……って、何か怒ってらっしゃる?」 「……別に、怒ってなんかないわよ。ってかアンタ、いきなり部屋出て動き回ったりして平気なの?」 「おかげさまで、このとーりピンピンしてますよっと」 そう言って、上条は突然スクワットを開始した。 そして何回目かのときに、バランスを崩して派手に転倒した。 「ってー」 「……アンタ、馬鹿じゃないの? ちょっとの間とはいえ寝たきりだったんだから、そんなすぐに動けるようになるわけ無いでしょ」 美琴は冷ややかな目で上条をみつめる。 「はは、そういやそうか……」 「もういいから、部屋でおとなしくしてなさい」 なんなら連れて行こうか、と美琴は提案するが、上条はそれを辞退し、そのまま部屋に帰った。 再び部屋に一人になった美琴は、あることに気づく。 「あれ、治ってる?」 美琴の胸の中のモヤモヤしたものが、いつの間にか消え去っていた。 不思議に思う美琴だったが 「ま、治ったんならいっか」 特にこだわることはなく、そのまま気にしないことにした。 しかし、美琴も気が付かないレベルの、小さなチクリとした痛みだけは残っていた。 ----- 翌日、美琴は再度上条の治療のための手術を行っていた。 しかし、昨日とはうってかわって、作業は難航していた。 難易度としては昨日と変わらないはずだったが、美琴自身の能力の制御が甘くなっているのか、何度かヒヤリとするような事も起こっていた。 フォローに徹しているカエル顔の医者がいなければ、何が起こっていたかわからない。そのような状態だった。 (なんで、集中できないのよ……) 美琴の胸の中のモヤモヤが、いつの間にか復活していた。 「コイツは治ったあと、どうするんだろう」ふとそう思ったとたん、昨日見たある光景が頭から離れなくなった。 雑念混じりの状態ではあるが、美琴は頭をフル回転させて上条の治療を進めていく。 しかし、無理がかかっているのか、少しずつ、頭痛が美琴を襲うようになった。 余計なことを考えず、集中しろ。 そう自分に言い聞かせる美琴だったが、一向に効果は出ない。 そして、またも危うくミスをしてしまいそうになる。 カエル顔の医者は、何かを迷っているようだった。 おそらくは、治療を中断させるかどうかだろう。 この段階で中断してしまうと、今日の分の治療は意味をなさなくなる。 そして、美琴にもできないと判断されてしまうと、この方法で上条の病気を完治させることは不可能となるだろう。 すぐにどうこうという状態は脱してはいるものの、上条はこのままでは爆弾を抱えたまま生活を送ることになる。 しかし、そんなことよりも (コイツは絶対、「私が」助けるんだから!) 美琴には治療を中断するという気はさらさらなかった。 カエル顔の医者も、そんな美琴の表情から察して、制止しようとはしなかった。 治療は少しずつ進んでいくが、美琴の頭痛は激しさを増し、頭の神経が焼き切れてしまうのではないかと思えるくらいだった。 しかし、美琴はすべての気力を振り絞って能力の演算を続けた。 突然、美琴の頭の中に、上条と初めて出合った頃の情景が浮かんできた。 当時は子ども扱いされたことに腹を立てていたが、今では笑い飛ばせそうだ。 妹達を救ってもらった。偽デートをした。罰ゲームをした。外国まで追いかけていった。 次々へと、上条との思い出と、その当時の美琴の感情が蘇っていく。 (ああ、そっか。あのことを忘れてたんだ) 美琴は、自分が「ある感情」を忘れていた事に気付いた。 それはとても重要なもので、美琴は思い出せたことにホッとする。 いつの間にか胸の中のモヤモヤが消えていた。集中力も戻ってきた。 頭痛だけが消えずに痛みを増してきていたが、美琴は治療の成功を確信していた。 なんのために上条を助けるのか、それに対する明確な回答を見つけられたから。 ほどなくして、手術のすべての工程を終え、上条の治療は完了した。 同時に、美琴は意識を失い、その場に倒れこんだ。 ----- 上条は目を覚ました後、完治祝いということで大勢の友人達から手荒な歓迎を受けた。 そんな中美琴の姿を探してみたが、今回も美琴の姿が部屋の中に無かった。 前回は疲れて休んでいたというのが理由だったが、今回もそうなのだろうか。 上条は友人達と話している間も、ずっとそのことが気がかりになっていた。 友人たちが帰った後、上条は昨日美琴が泊まっていた部屋を訪ねた。 しかし、その部屋は誰にも使われていない状態になっていた。 「御坂君を探しているのかい?」 突然後ろから声がかかる。 上条が振り返ると、そこにはカエル顔の医者がいた。 ちょうどいいと、上条はカエル顔の医者に問いかける。 「先生、御坂はもう帰ったんですか?」 カエル顔の医者はその質問にはすぐ答えず、少し間をおいた後 「ちょっといいかな?」 場所を変えることを提案してきた。 ----- 「面会謝絶!?」 カエル顔の医者が言うには、美琴はまだ病院にいるらしい。 しかしどういうわけか、面会謝絶という不穏な状態になっているようだった。 「本人の希望でね。1日だけ、誰にも会いたくないらしい」 「先生! 御坂に何かあったんですか!?」 カエル顔の医者は答えない。 上条がそれでも問いただそうとすると、カエル顔の医者はため息をつき 「……そうだね。患者に必要なものを用意するのが僕の役目だからね」 と独り言のように呟いた。 そして、上条に向かって、美琴の所在を伝えた。 「彼女は……○○号室にいるよ」 上条はその言葉を聞くと、即座にその部屋まで走っていった。 ----- 美琴のいるはずの病室のドアが、勢いよく開かれる。 「御坂!」 中に飛び込んだ上条が辺りを見回すと、ベッドの上に座っている美琴の姿を発見した。 美琴は突然の上条の訪問に驚いているようだった。 「な、何?」 美琴の姿からを一見して、特に別状が無いように思えた上条は、安堵のため息をついた。 「無事、なんだよな……? よかった、一時は俺のせいでお前がどうにかなっちまったのかと思ったよ」 一方、美琴は上条の姿を見て、少し焦っていた。 「え、ええと……そうですね。特になんともないですよ?」 その美琴の言葉は、上条に頭を殴られたかのような衝撃を与えた。 固まってしまった上条を見て、美琴はいかにも「まずい」という表情を一瞬だけ作り、あわてて表情を戻した。 どうして敬語を使ったのか。不思議に思った上条が美琴に問いかける。 「なんで、敬語……」 「え、ええと……その」 美琴は何かを迷っているようだった。 上条は美琴の返事を待った。 「ちょっと驚かせようと思っただけよ」 美琴はそう言って目をそらした。 上条には、美琴のその反応が、何かをごまかそうとしたように見えた。 突然面会謝絶にして他人との接触をさけたこと、突然ぎこちない話し方になった理由。 上条の頭には、ある可能性についてが浮かんだ。そしてその可能性について、上条は聞かずにはいられなかった。 「なあ御坂」 「な、何よ……」 「もしかして……俺の事、覚えてないのか……?」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/消えゆくあいつの背中を追って
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox 彼女が水着に着替えたら たらふく水を飲まされた。 「うがぁ……」 げっそりとした表情と共に重い足を引きずって階段を登る上条。 「あー面白かった」 思い出し笑いを続けながら階段を登る美琴。 流水プールでマグロ並の周遊と溺死体ごっこを(主に上条が)一通り楽しんで、二人は名物のウォータースライダーにやってきた。 ここはラージヒルのスキージャンプ台かと思いたくなるほど長い階段を登っていくと、その前方では上条と美琴のように順番待ちのカップル達がずらっと並んでいる。中には一人で挑戦しようとしている者も何人かいるが、周囲のカップルの熱々ぶりがうらやましいのかそれともいたたまれないのか、小さく縮こまっている。 延々と階段を登らされるならスタート地点までエレベーターでも設置すりゃ良いのにと上条は思うのだが、スタート地点で客を捌く都合かはたまた景観を損ねないためなのか、そんな便利な乗り物は用意されてないらしい。 「あー、何で水が落ちてこねえんだろうと思ったら、コースがパイプみたくなってんのか」 ウォータースライダーのコースは底面こそ青く塗られているが、その他の部分は透明度の高いポリカーボネートで筒状に形成されている。だから下から見ててもコースレーンしかないように見えたのか、と上条は納得した。底面が塗装されているのは、スライダー利用客とその下で泳ぐ客、双方のための配慮だろう。 苛烈な趣味を持つ一部諸氏をのぞき、誰だって人の臀部を眺めて泳ぎたくなどないし見せたくもない。 それはともかく。 このスタート地点でさえ地上から三〇メートル弱の高さ。対してウォータースライダーのコース長は約一キロ。と言う事は、上条のあやふやな数学の知識を総動員して計算するとコース全体で平均して約二度前後しか傾斜角が用意されていないと言う事になる。たったの二度ではコースパイプの底面にビー玉を置いて、それが転がり始める程度の運動エネルギーしか得られない。 ウォータースライダーは滑走と速度によるスリルを楽しむための施設だ。ビー玉でもなければこの緩やかな傾斜を滑る事は難しそうに思える。ビー玉のように丸くない人間はどうやってここを滑り落ちるのか。 こう言う難しい話は美琴に聞いてみるのが一番だろうと上条は考える。 『なあ、これってどうなってんだ?』と声をかけようとしたところで、 「はい、次の方こちらへどうぞ」 コースパイプの手前に用意された、赤く正方形に塗装されている地点を係員が指差す。 どうやらここに座れ、と言う事らしい。 先に腰を落とした美琴に続いて上条も同じように腰を下ろすと、 「……で、なんでアンタはそんなにすき間を空けてんのよ。もっとくっつきなさいってば」 「……、んな事言われても……」 上条は美琴の後ろで拳一つ分のすき間を空け、美琴の体を脚の間において、自分の脚を前方に投げ出す姿勢で赤い部分に座った。いわゆる恋人座りだが、今の二人の場合は譬えるなら木から落ちそうになっているナマケモノの親子に似た状態だ。 「すみませんが、もう少し女性に抱きつくようにくっついてもらえませんか? 離れて座られるとセンサーがうまく働かないんですよ」 「センサー? んなもんどこに……って、これか」 上条が首を巡らせると、係員が済まなさそうに指し示す部分に客の体重を測定するらしき小型の赤外線センサーのようなものが設置されていた。センサーは人間一人分、ではなく二人でも三人でもまとめて『一個体』で換算し、何らかの演算を行うらしい。 上条達の背後には、ぽっかりと開いた用途不明の空間がある。まるで排出口のように見えるがあれは一体何のためにあるのだろう。 仕方ないので上条はしぶしぶと座る位置を前に詰め、美琴の背中に自分の胸板をぴたっと当てる。何やら説明のできない感触にうわあ俺どうすりゃいいんだと上条が心の中で葛藤していると、 「ほら、アンタの手は私の肩じゃなくて私の体に回して。体重はこっちに預けるつもりで寄りかかんなさい」 美琴に腕を引っ張られ、仕方なく上条は美琴の肩から手を離した。 どこかでぶぃいいいいいんと響く少し間抜けな機械音と『準備完了(レディ)』という合成音声が聞こえて ドカッ!! 「うおっ!?」 「きゃっ!?」 突然上条の背中が形のないハンマーのような何かにものすごい勢いで叩かれ、上条を通じて美琴の体に衝撃が伝わり、二人まとめてウォータースライダーのコースパイプ内に放り出された。 二人が座った部分に設置されたセンサーは、緩く傾斜したコースパイプの中でもそれなりの加速が付くように、客の総合体重を測定した後最適な出力で客の背中に向かって圧縮空気を『叩きつける』ためのものだったらしい。 さしずめ人間用カタパルト、といったところか。 たった二度の傾斜角しかないはずのコースパイプの中でどんどん加速が付いていく。 圧縮空気によるコースパイプ内への射出だけではなく、パイプの滑走面に流される水と空気が絶妙のバランスで摩擦係数を減らし、速度向上に一役買っている。しかも、一キロという距離を滑っていても水着が脱げることもなければお尻が痛くなることもないのだから、このウォータースライダーを設計した人間はよっぽどのマニアなんじゃないかと上条は推測する。 「どこ触ってんのよ馬鹿!! ちゃんと腰に手を回しなさいってば!!」 「どこ触ってるって言われても分かるかっ!」 二人は加速を続けながらパイプの中で叫び合う。 ここで変態扱いされるのは不本意なので、上条は後ろから抱きしめるように美琴の腰らしき辺りに手を回した。 しかしこの速度はただ事ではない。体感速度と実際の速度は異なるという話を良く聞くが、いったい時速何キロくらい出ているのだろう。 ウォータースライダーと言うよりもこれはボブスレーじゃないのかと思えるほどの速度で二人は着水プールに向かって突き進む。とても悠長に景色を楽しむ余裕などない。 コースパイプがカーブを描き、二人がコーナーを通過する度に視界がぐいんと捻るように九〇度回転し、また元に戻る。 うぉああああああーと言う上条の絶叫。 きゃあああああーっと言う美琴の悲鳴。 二つが不協和音を奏でてポリカーボネイト製のパイプの中に響き渡る。 あ、パイプで仕切られてない空がやっと見えた、と上条が斜め上の空間を見てそんな事を思った瞬間、ザッブーン!! と二人まとめて着水プールの中に放り出された。 深く広く作られ水をなみなみと湛えた着水プールは、まるでスポンジのように着水の衝撃を殺し、加速が付いた二人の体を受け止める。 青い水中で上条と美琴の体が離れ、無重力状態にある宇宙船内部で漂うみたいにくるん、と回った。 上条はぶはぁ、と着水プールの水面に顔を出した。 後ろを振り向くと、同じように美琴も水面に顔を出しているが、 おかしい。 美琴はそこから動こうとしない。 「どうした? いつまでもそこにいると次の客が滑り落ちてきてぶつかるんじゃねーのか?」 「あ、うん……そうなんだけどね」 美琴の歯切れは悪い。曖昧に頷くもののやはり移動しようとせず、その場でちゃぷちゃぷと浮いている。 「どっか怪我でもしたのか?」 上条が泳いで近づくと美琴はザブン、と水音を立てて潜ってしまった。 「……へ?」 そろそろ次のお客達がスライダーから落ちてくる。着水プールの監視員も上条達に向かって『じゃれ合いたいのは分かるがとっとと上がれ』と言う趣旨の警告を発している。 ひとまず上条は美琴を追って水の中へ。 水中の美琴は両手を自分の背中に回しながらぶくぶくと無数の気泡をまとわりつかせて沈んでいく。 (アイツ、何やってんだ?) 泳いで美琴のそばに近づき、人差し指を上に向けて『上がらないのか?』と言うジェスチャーをすると、美琴は両手で自分の胸元を上条から隠して、また沈んでいく。 このまま沈んでいく趣味があるならそれはそれでかまわないが、たとえ美琴が肺活量に絶大な自信があったとしても長々と潜水できる訳ではない。 上条は意味不明の行動を取る美琴の手を引っ張ると、上方向に向かって泳ぎだした。 上条は水面から顔を出すと肺いっぱいに酸素を吸い込んで、 「御坂? お前一体どうしたんだ?」 「……れたの」 か細い美琴の声が続く。 それにしても変な単語だ。 「れた? れたって何だ?」 「……ずれたの」 「ずれた? 何が? 顎の骨か?」 「外れたの! 水着の紐!!」 真っ赤な顔で『これ以上言わせるな!』と美琴が叫ぶ。 美琴の水着から首に回る紐はそのままなので、どうやらトップから背中に回る紐がスライダーから着水プールに落ちた時の衝撃でほどけてしまったらしい。美琴は水中でそれを直そうとしたが紐が水に漂ってうまく掴めず、結果美琴はそのままぶくぶくと沈んでいたようだ。 「……直してやるから後ろ向け」 とは言うものの、着水プールの水深は五メートル。 これはウォータースライダーから着水する際の衝撃緩和と事故防止のために用意されたもので、五メートルもあったら上条も美琴も底に足がつかない。足がつくほど浅いなら最初から美琴も苦労せずに背中の紐を直せるのだが、五メートルの深さでは泳ぐ、もしくは何らかの手段で体を支えなければ背中に手が回せない。 美琴は電撃使いなのでプールの壁に電磁力で張り付いて姿勢を固定するという手段が使えるが、それをここで使ったら不特定の誰かを巻き込んでしまう。 どうするか。 手っ取り早い方法は、二人ともプールの外へ出て背中の紐を直すことだ。だが、問題はそこではない。 水に上がったが最後、美琴の言葉にしてはいけない部分がうっかり見えてしまうかもしれない。 と言う訳で、上条はいったんプールから上がり、プールサイドから着水プールに向かって目をつぶったまま『ほらよ』と首を伸ばす。 美琴は両手を伸ばし、上条の体で自分の胸元を隠すようにしてプールから上がり、美琴がプールから完全に上がった時点で上条が美琴の背中に手を回して紐を直す、という方法で 「……こっち見るんじゃないわよ」 「……分かってるよ」 上条は目を閉じたまま両手両膝をプールの縁につけ、畑からサツマイモを引っこ抜くかのごとく首にぶら下がった美琴を水中から引き上げる。美琴はプールの縁に足をかけて水中から上がり、そのまま上条の体を目隠しに使う。 美琴が完全に水から上がったのを確認すると、上条は美琴の体にへばりついた紐を一本ずつ手で持って、背中の真ん中でちょうちょ結びに直し 「……、ほれ、できたぞ」 「……ありがと」 プールサイドで正座した上条と美琴が向かい合うという変な構図で、 「……見てないわよね?」 「……見てねえよ」 そりゃちっとは興味があったけど、と言う言葉を飲み込むと上条は神妙に頷いた。 上条当麻の半分は正直でできているのだ。 お腹が空いたのでお昼ご飯を食べようと言う事になった。 美琴の支度が遅れた分プールに入るのも遅れて、その分上条達の昼食の時間も後ろにずれたので、ここにしようかと選んで入ったカフェテリアのレジカウンターも店内の四人掛けテーブルにも空きが目立つ。 店内の通路も防水処理加工を施された椅子もゆったりとした欧米サイズで作られていた。カフェテリア全面に取り付けられた大きなガラス窓から自然光を取り込んで、店内にいながらオープンカフェのような開放的な雰囲気でくつろいで食事が摂れる。いかにもセレブ御用達のリゾート地でお目にかかれそうなカフェテリアだった。 座席確保を気にする心配もなさそうなので、上条は食べるもの、美琴は飲むものと手分けして調達する事にした。混雑対策のため複数用意されたレジカウンターでは、暇そうな男性店員があくびを噛み殺している。 この後もいくつかプールを回ろうと話しているので、食事は胃にもたれないものをという美琴の希望によりサンドイッチと、もう少し何か欲しいなという上条の選択でソーセージの盛り合わせを購入した。笑顔がチャーミングな店員のお姉さんからお皿を受け取ると上条は手首のICバンドで精算を済ませる。 さてアイツはどこへ行ったかなと上条が店内をキョロキョロ見回していると、窓際のテーブル席で美琴が『こっちこっち』と上条に向かって手を振っている。 大きなガラス窓の向こうには、まるでファッションモデルのようなカップルや上条達のように初々しく腕を組んで歩く男女、そして『ひんにゅーばんざーい』や『ロリは正義やでー』というどこかで聞いた事のある台詞も耳に入ったが、そっちはもう聞き違いの一手であって欲しい。 美琴と差し向かいで食事を摂ると上条はどうしても美琴のとある部分に視線が集中しそうなので、 『一ヶ所にじっとしてっと日焼け止め塗っても焼けるかも知んねーから念のためにパーカー着ておけよ。ここってやたら陽射しが入るみたいだし』 という上条のそれらしい説得により、美琴はライムイエローのゲコ太パーカーをクロークから取り戻して羽織っている。当然ファスナーは上まで引き上げ済みだ。 その後で美琴は 『もちろんあとでアンタが脱がせてくれんのよね?』 『……なあ、それだとまるでバカップルっぽくねえか?』 バカップルには二通りある。 周囲に見せつけることを目的とした狭義の意味での『能動的な』バカップルと、 自分たちのことに精一杯で周囲にまで気を配れない、いわゆる初心者カップルがやらかしてしまう『受動的な』バカップルが存在する。 上条達の場合はどちらかというと後者だが、美琴の行動が若干前者に近いので、上条としては遠慮被りたいのだ。 美琴が確保した席に上条が戻ると、カフェテリアで使うには少々値の張りそうな黒くどっしりしたテーブルの上に、ドリンクの入ったグラスが一つ。 グラスの中には細かく砕かれた氷と、パイナップルをベースにしたと思われるいかにもトロピカルなジュースと、一口大にカットされた色とりどりの果物が放り込まれている。 でも、グラスは一つしかない。 上条はジュースの入ったグラスを見ると首を傾げて、 「……、あれ? 俺の分はねえのか?」 「あるじゃない、アンタの目の前に」 そんなことを言われても納得できない。 上条は黒いテーブルの上にサンドイッチとソーセージの盛り合わせが乗った皿を置いて、両手で目元をゴシゴシとしつこくこする。 手品でも何でもなく、ジュースの入ったグラスは一つしかない。 上条と美琴の目の前にあるテーブルに置かれているのは、 細かく砕かれた氷とパイナップルをベースにしたと思われるいかにもトロピカルなジュースと一口大にカットされた色とりどりの果物が放り込まれて、途中がハート型に曲げられたストローが二本刺さったハンドボールくらいの大きさのグラスが一つ。 上条はやだなあ何の冗談だよと思いつつ、 「……、御坂たん。聞きたくないけどこれってもしかして」 「見ての通りこれで二人分よ。それから何気なく御坂たんて言うな」 「はぁ? 何で別々のグラスにしてもらわねえんだよ?」 「何でって言われても、ここのは最初からこうなんだから仕方ないじゃん。それとも何? この二人分のジュースを一人で飲めと言うのかアンタは」 上条は近くのレジカウンターまで走って壁に貼り付けられたドリンクメニューを読んで絶句する。 お客がお一人様でウォーター・パークを訪れる事は想定されていないのか、このカフェテリアではコーヒー以外の飲み物は全て、基本的に二人前の分量でオーダーする事になっているのだ。もちろんストローを二本添付、というのも店員が給仕する際の基本設定(デフォルト)。 つまり、上条は飲みたくもないコーヒーを別口に注文するか、新たに飲み物を購入して一人で二人分に挑戦するか、何も飲まずにサンドイッチとしょっぱいソーセージをやり過ごすか、美琴と一緒に目の前のトロピカルジュースを飲むしかない。 ストローが二本刺さっているからと言って、美琴と同時にジュースを飲まなければどうと言う事はない。美琴が飲んでいない時を見計らって飲めばいいかと思い直し、上条は椅子を引いて腰を下ろした。 「はい」 ドスン!! と。 リゾートには不似合いな威勢のいい音が聞こえたと思ったら、幸運を呼ぶ壺かダンクシュートのように、上条の向かい側で大きなグラスを両手で支えて台座をテーブルのど真ん中ヘ叩きつけるゲコ太パーカーを着た少女が。 「……つべこべ言わないでアンタは私とこれを飲むの。いい?」 こんなコテコテのカップルみたいな真似事をするのは嫌だと思っていた考えを見透かされ、据わった目で美琴に睨まれて、逃げ場を失った上条は震える唇で小さく一言だけ『……はい』と告げる。 ところで、このウォーター・パークは周囲の施設を含み、リゾートを主題にした研究エリアだ。 その研究施設で最大規模を誇るウォーター・パークのテーマは『夏』。 ようするに、このエリアで一番大きな施設が夏以外は研究に使えない。 「んなわけないでしょ」 上条が『なぁ、ここって冬になったらどうなるんだ? 全面スケートリンクにでも変わんのか?』と質問したところ、美琴が苦笑混じりで答えを告げる。 「天気が悪い日や冬場は屋根がかかるの。ドーム式のヤツがね。だからここは冬でも泳ぎに来れんのよ。水はそのままじゃ冷たいから温水に切り替わるけど」 「へぇ、そうなのか。こんな広いパーク全面に屋根がかけられるなんてすげーな学園都市」 「その屋根も研究対象ってんだから大したもんよね。次世代の太陽光発電システムを開発中とやらで、無駄に広い表面積を利用して施設で使用する電気をまかなえるらしいわよ。……本当は冬のうちにアンタと一回ここへ来たかったんだけどさ」 「何で冬だとダメだったんだ?」 上条の素の疑問に美琴がはぁ、と小さくため息をついて、 「……アンタがそれを分かってないからでしょうが。鈍いアンタに何度も気持ちを伝えて、ご飯作りにアンタの部屋に通って、いろんな事教えてようやく恋人らしくなったから二人でここに行こうって気になったんじゃない。冬の頃のやたら反応が薄いアンタだったら、誘ってもアンタが即座に『嫌』って言うか、来てもスタスタ一人で泳ぎに行っちゃうのが見え見えだもの」 上条と美琴の恋は、美琴視点でシナリオを起こせば美琴好みの心情描写に焦点を当てた主観的な恋愛映画が一、二本は楽に撮れるくらい激動に満ちている。美琴本人はもっとゆったりした静かな恋愛物が好みであるが、ゆったりや静かを通り越して反応がないに等しかったかつての上条が相手では、それは望むべくもない事だ。 動物園の飼育係が野生動物を手なずけるのと同じくらい、聞いているだけで美琴の涙ぐましい努力の跡が垣間見える話でも上条にとっては『そうだっけ?』くらいの感慨しかない。 その上条にしても、いい加減な気持ちで交際を始めてから本当に美琴が好きだと思えるようになるまで紆余曲折があった。美琴が上条の手を引いてものすごい勢いで走っているジェットコースター感覚が強かったため、付き合い始めてから半年以上経つのに『いくら何でも急ぎすぎじゃねえの? もっとゆっくり行こうぜ』という気分なのだ。 こんな感じで二人はとりとめもない会話を楽しんでいたのだが。 上条がいざジュースのストローをくわえようとすると、美琴がグラスに顔を近づける。 上条がグラスから顎を引いても、美琴は片肘をついて悠然とストローをくわえたまま、上条の目を見つめながらジュースをちゅーっと飲んでいる。 最初に食べたソーセージがやたらとしょっぱかったので、ジュースを飲もうと上条がストローに指をかける度に、美琴は思わせぶりに美琴の分のストローをつまむのだ。 これではいつまでたっても上条は喉を潤せないし、ジュースを飲めないから次のサンドイッチに手が出せず、お腹も膨らまない。 美琴がはい、とサンドイッチを一切れつまんで上条に差し出しながら 「……アンタ全然食が進んでないみたいだけど、どうしたの?」 サンドイッチを食べるにしても、先にジュースを飲みたい。水分の少ないパンを食べたら口の中がカラカラになりそうだ。 ひとまず上条は美琴の手からサンドイッチを受け取る事にして、 「……何やってんのよ、口開けなさいって。ほら、あーんして」 上条が美琴の持つサンドイッチに伸ばした指をかわして、美琴がサンドイッチをつまんだ手ごと上条の口元に差し出す。 「……、普通に食わせてくれねーか? あとサンドイッチを皿ごと持ってくなよ」 「だから普通に食べさせてあげてるでしょ? 犬やオットセイみたいに投げたものを空中でキャッチして食べろとは言ってないんだから」 「ここはウォーター・パークじゃなくて動物と触れあえるレジャーセンターだったのかよ!? 俺で遊ぶな!!」 「遊んでない遊んでない。だからほら、口開けて」 バレンタインデーの時に上条はこのパターンで美琴にチョコを奪われているので、遊んでないと言われてもつい疑り深くなってしまう。 「……ぎりぎりで手前に引っ張って『残念でした』とかやらねえだろうな?」 「こんなところでそんな幼稚な事しないわよ。周りの方がもっとすごいもん」 ほら……と小声で呟く美琴がこっそり指差した方を上条が振り返ると、 「な……ちょ……げ……」 そこには抱き合いながら一切れのサンドイッチを一本のプレッツェルよろしく両端からかじっていくカップルの姿が。 サンドイッチはプレッツェルほど長さがないので、あっという間にカップルの顔の間で原型を失っていく。 そして 「…………ぎゃあああああああああああーっ!!」 離れているのに生々しい音が聞こえてきそうな決定的瞬間を脳内に収めてしまい、一声叫んでもうダメだと両手で頭を抱えてテーブルの下に潜り込む上条。 「……おーい、出てこーい。もう終わったから大丈夫よ。あのカップル、店の外に出て行ったから」 凶暴な大型犬に見つかるまいと隠れた子犬を呼び出すようにテーブルの下をのぞき込む美琴。 頬を染めつつもカップルの一部始終を最後まで見届ける辺り、美琴には何か思うところがあるのかも知れないが、くっきりと脳裏に刻まれてしまった映像を消去するのに必死な上条はそれどころではない。 上条はテーブルの下から涙目になった顔だけを出して、 「まさか……御坂たんは俺にあれをやれと?」 「アンタがやりたいって言うなら挑戦してあげても良いわよ? あと、さりげなく御坂たんて言うな」 何故だろう、哀しくないのに溢れる涙を止められない。 「……、やっぱり普通で良いです俺」 上条はテーブルの下からもぞもぞと這い出ると、美琴の向かいの席にぐったりしながら座り直し、美琴が差し出したサンドイッチにかじりついてもぐもぐと咀嚼する。 人間とは大きな不幸を目の当たりにすると小さな不幸などどうでも良くなる生き物なのだ。 「おいしい?」 おいしいかと問われればおいしいのだが、おしなべてこう言ったテーマパークの食事は外で食べるものより値段が割高だ。費用対効果(コストパフォーマンス)は望むべくもない。 だから上条は思った通りのことを口にした。 「……お前が作った方が美味いんじゃねえの?」 その方が金もかからねえし、と上条が告げる前に、上条の前に食べかけのサンドイッチを差し出していた美琴の動きがビクッ! と固まった。 上条の何でもない言葉に何故か美琴は狼狽して、 「……ななな、何馬鹿な事言ってんのよ。こう言うところってプロが作ってんのよ? 私が比べものになる訳ないでしょ」 はたして上条の言葉通りなのか味を確かめるべく、美琴は手にしていた食べかけのサンドイッチを口の中に放り込むと、 「―――――――――――――――――――――!!!」 そのサンドイッチは直前に誰が食べていたのかを思い出したらしく、美琴は顔どころか耳まで真っ赤になった。 「御坂? これってそこまでマスタード効いてなかったと思うんだが……辛いのか? お前もしかして超甘党で辛いのはちょっとでもダメ、とか言う奴だったっけ?」 「……………………………………」 美琴は硬直したまま何も言わない。 「とりあえず、ジュースでも飲んだらどうだ?」 上条が向かい側にグラスを押しやると、美琴は自分のストローをつまんで真っ赤な顔のままトロピカルジュースを飲み、直後に何か取り返しの付かない失敗をした時に浮かべる表情を両手で覆い隠してテーブルに突っ伏した。 何だかよく分からないが美琴がジュースを飲む事を断念したらしいので、上条はグラスを手元に引き寄せて久しぶりの水分補給を行う。 しょっぱいのとパサパサなのを相殺してお釣りが来るほど、初めて飲むトロピカルジュースは甘かった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Plus Minus Chapter1 ~日常と非日常の狭間~ P.M. 3 20 御坂美琴は、第177支部へと向かっていた。 珍しく学校が早めに終わったので、親友である白井や初春、そして佐天と駄弁る為だ。 「う~~~~~ん!!初春さんや佐天さんに会うのも、久しぶりの様な気がするわ~~」 背伸びをしながら、最後に会ったのっていつだっけ?と記憶の糸をたどる美琴。 第3次世界大戦やら何やらがあったせいで、かなり記憶がごちゃ混ぜになっている様だ。 そこで唐突に携帯が鳴った。 一瞬ビクゥ!!としたものの、冷静にディスプレイを見ると『初春さん』と表示されていたので、切れないうちに慌てて通話ボタンを押す。 「あっ、もしもし初春さん?」 『あっ、はいそうです~。いきなりで何なんですが、御坂さんってもう177支部に着いてますか?』 「う~ん、まだ着いてないけど後2,3分ってところね。どうしたの?」 『いや早めに着くんでしたら、ちょっと頼みたいことがあるんですけど………』 「別に構わないけど……。どんなこと?」 『有り難うございます!!……えっとっ、支部にある私のパソコンを起動させてもらいたいんですが……』 「あれ?………初春さんのパソコンって起動にそんなに時間かかったっけ?」 『そのですね………パソコン新調したんで、色んなソフトをインストールしてたら、いつの間にかめちゃくちゃ重くなっちゃったんですよ………………。我ながら恥ずかしいです…………』 「あちゃー………それは大変ね……………」 『ちょっと調べたいことがあるので、宜しくお願いしますね!!私と佐天さんも、あと10分程で着きますので!!』 「分かったわ、それじゃまたね」 携帯を鞄の中にしまった美琴は、そこで、ふと些細な疑問が生じた。 「んっ?調べたい事って何だったんだろ?」 一応結論だけ述べておくと、その答えは彼女の想い人である上条当麻であったりする。 そうこうしている内に第177支部に到着したので、とりあえず頼まれた初春’sパソコンの起動を済ます。 「うっわー、情報量が限界を超えてるわよ………そりゃ起動に時間がかかるわ……」 パソコンに負荷をかけない様に、能力でスキャニングをした際の素直な感想である。 軽く予想しただけでも10分以上は必要とみられる。 美琴がその能力で起動をサポートすれば少しは早くなるだろうが、データを傷つける恐れもあるので、サポートの方は行わない様だった。 そこで、バ――ンと第177支部のドアが開き、 「御坂さ~ん、こんにちは~!! あちゃー、やっぱりまだ起動してないみたいです………」 「御坂さん、ご無沙汰してます!!!」 頭の花飾りが特徴の初春飾利と、いつも通りに活気に満ちあふれる佐天涙子が飛び込んできた。 その勢いに、若干たじろぐ美琴。 「ああ………お久しぶりね2人共………アハハ……」 「「?どうかしましたか?(したんですか?)」」 2人が顔を覗き込んできたので、無駄な詮索を恐れた美琴は、何でも無い何でも無いと首を高速に横に振る。 少しの間、不思議そうな顔で美琴を見ていた初春と佐天だったが、機転を利かせた美琴の 「じゃっじゃあ私、お、お茶いれてくるね~」発言により、両名の詮索モードは解除された様だった。 P.M. 3 45 まず始めに報告が2件。 1、やっと初春’sパソコンが起動した。 締めて18分49秒に及ぶ長丁場である。 2、美琴が不可抗力でこぼしてしまったお茶の真上に、白井黒子が空間移動してきた。 そして、見事に盛大に完膚無きまでにすっ転んだ。 「いきなりこの仕打ちは何なんですの………………」 結果的に、ごっそり体力と気力を持って行かれた白井黒子がソファーに座っている。 美琴と佐天の2人は必死に白井への対応を考えていたが、初春はやっとの事で立ち上がったパソコンで書庫(バンク)にアクセスをしていた。 そんな彼女に、どこかしら黒いものを感じたのか白井は、 「初春?さっきからカタカタ何を調べているんですの?」 「……………いやちょっとですね、ある人を探しているんですよ」 「……………本当の理由を教えて欲しいものですわね」 「ホントですって!!!決して、今の白井さんを見ちゃうと笑っちゃいそうになるからパソコンの作業に移っ……………………………………あっ」 「……………う~い~は~~~るぅ~~~~~?」 本来、治安の塊であるはずの風紀委員第177支部に、殺気の念とやっちゃったオーラが渦を巻く。 「…………………………今度、初春の枕元に『口は災いの元』って書いた紙を置いておこう」 佐天はと言うと、親友の今後を本気で心配していたりする。 一方の美琴は、白井と初春が冷戦状態になってしまったので、質問対象を佐天1人に絞る事を決定していた。 「ねえ佐天さん、ちょっといい?」 「やっぱり『口が軽すぎる』の方が…………あっ、何ですか御坂さん?」 標語の変更まで考えている佐天だが、美琴に話しかけられたので一旦その思考を止める。 「質問なんだけど、初春さんが何調べてたか分かる?」 「ああ、その事ですか。実はですね………昨日帰りが遅くなって、暗い夜道を初春と歩いてたらスキルアウトの方々に絡まれましてね………………」 「えっ、大丈夫だったの?!」 「はい、この通りです!!………と言っても、見知らぬ男の人が助けてくれたからなんですけどね…………。 初春が調べて探しているのはその人ですよ」 「中々、度胸のあるやつね………単身でスキルアウトに飛び込んで行くなんて」 「そうなんですよ。それも出てきたと思ったら、直後にスキルアウトを引きつけて追いかけっこを始めちゃうんですもん………お礼言う暇も無かったんです」 「そっか、見つかるといいわね……………………………………………………って、ん?」 この時、美琴は気づいてしまった。 こんなシチュエーション、前に見たことがあるぞ~?と。 「…………………………………………スキルアウト………女の子………助ける…………」 「御坂さん……?いきなり何を呟いてるんですか………?」 この時点で、確信度60%。 「…………佐天さん、聞きたいんだけどその人髪型はどんな感じだった?」 「えっと~、結構特徴的な髪型でしたね。何て言うか、こうツンツンとした………」 確信度99%。 「………もう一つだけ良い?そいつ『不幸だあ――!!』みたいなこと言ってなかった?」 「あれ?御坂さん何で知ってるんですか?確かに、遙か彼方の方から叫んでるのが聞こえましたけど………」 ダメ押しの佐天の解答により、美琴の確信度メーターが振り切れた。 「………………やっぱりアイツかああぁぁぁあああああ――――――!!!???」 「御坂さん!?いきなり絶叫したりビリビリしたりどうしたんですか―――!!!???」 いきなり叫んだかと思ったら、髪の毛の方も帯電している美琴。 自己防衛本能的に「マズくない?この状況?」と感じた佐天は、白井と初春に助けを求めようとするが、既に彼女達はそこにいなかった。 代わりに聞こえるバタンッ!!という、慌ててドアを閉める音。 どうやら、2人共凄まじい勢いで逃げている模様。 (……………………あれ?私見捨てられちゃったパターン??) しばし唖然としていた佐天だったが、刻一刻とタイムリミットは近づいてきている。 ということで、本日の教訓。 自分の命は自分で守るべし。 「……………………佐天涙子、脱出します!!!」 佐天が猛然とドアを捉え、転がる様にして部屋から脱出した瞬間、内部から凄まじい雷鳴が轟いたのは言うまでもない。 「…………………どうしよう………少しだけ、初春さんと佐天さんに嫉妬したなんて言えない…………」 美琴は美琴で悩んでいた。 漏電の理由が『嫉妬』なので尚更である。 P.M.4 20 「おねがいおねがい、ってミサカはミサカは必死に駄々をこねてみるうぅぅ…………」 「……………しつけェ……」 「あなたもいいかげんに諦めたら?ってミサカは思うんだけどねえ」 とあるマンションにて、打ち止めが、番外個体と一方通行に交渉を行っていた。 といっても番外個体は始めから打ち止めに賛成なのだが。 「……………そこまでして何が見てえンだ?所詮、ただのバカ騒ぎだろォが」 「あなたは何にも分かってないね!!ってミサカはミサカは憤慨してみる!!! とりあえずミサカは一端覧祭というものに興味津々なのだ!!ってミサカはミサカは本音をぶっちゃけてみたり!!!」 「…………だったら1人で行けばいいじゃねェか」 「1人で行ったらつまんないじゃない、ってミサカはミサカは少し気分的な理由を述べてみたり!!」 「……………上位個体さん?そもそも、その容姿で1人で歩いてたらコワ~イお兄さんが出てくるとは思わない?」 要するに打ち止めは、一方通行と番外個体に一端覧祭を一緒に回って欲しい様だ。 既に番外個体は了承しているので、後は一方通行だけである。 しかし問題なのは、会話が会話なので話がかみ合う様子が無いということだ。 「………………てか番外個体の野郎だけじゃダメなのかァ?」 「あなたも一緒に来ないとダメなの!!ってミサカはミサカはもう理屈なんか無視して精神論で攻めてみる!!!みんなで行けば、きっと楽しくなると思うよ?」 「……………………………………だりィ………」 「…………………ここらで折れてあげるのも、保護者には必要だとミサカは思うぞ☆」 「そうだよそうだよ、ってミサカはミサカは番外個体に便乗してみたり!!」 「……………………………………めんどくせェ……………」 「…………………うわあああぁぁぁぁあああああああああん!!!!!!!」 「あ~あ、泣いちゃった~」 とうとう打ち止めが泣き出してしまったが、ひどくローテンションな一方通行は完全に無視している。 そんな上位個体を見かねた番外個体は、ちょいと一方通行に耳打ちすることにした。 「ねえ、上位個体もあんなんだから、そろそろオーケー出してくんない?」 「あァ?そォいえば何でテメエまであのクソガキの肩を持つンだ?」 「さっきから負の感情が渦巻いて、ミサカの頭がガンガンする………」 「テメエがそォいうってことは、かなり酷いんだろォな………………」 勿論の事だが、これは彼女自身の特性を生かした嘘である。 ただ、一方通行が意外にもあっさり信用してくれたのには拍子抜けしたが。 「って事だから、上位個体の機嫌を良くして、ネットワーク内の負の感情を抑えてくれると有り難いんだけど」 「…………ったく、面倒な体質しやがって…………」 「ほらほらミサカなんかに構ってないで、さっさとあちらに行ってあげなさい。ヒロインがお待ちかねですよ、ヒーローさん?」 「…………ヒーローなんかはあのクソ無能力者で十分だ」 そう言いつつ打ち止めのもとに向かう一方通行。 離れて見ている限り、打ち止めの表情にも笑顔が浮かんでいる様なので問題は無さそうだ。 そんな状況を観察していた番外個体は、 「………………………こんな気持ち、ミサカにはぜ~んぜん分かんないや!!」 彼女らしくない行動によって得られた正の感情。 その感情を理解する事は、番外個体にとっては難しかったが、一つだけ理解する事があった。 それは 「まっ、ミサカも結局はお姉様のクローンなのかね」 P.M.5 00 そのお姉様は現在、尋問を食らっているところだった。 「なるほど……御坂さんが、私達の事を助けてくれた人とお知り合いなのは分かりました…………」 「ついでに、以前に御坂さんも助けてもらった人だって事も理解しました…………」 「そっそういう訳なのよ…………てかもうこの話終わりにし―――――――「「ません」」……………まだ聞く事あるの?………」 初春と佐天のコンビには、超能力者(レベル5)をもってしても、全く歯が立たない美琴。 支部の部屋を大急ぎで復旧させた後に、かれこれ30分近く質問攻めにあっているので、精神的にダウン寸前でもある。 この調子だと、いつ口が滑ってしまうかも分からない状況になっている。 とこんな局面で、情報詮索能力者(プライバシーオープナー)初春飾利、佐天涙子はジョーカーを出してきた。 「「御坂さん、何で漏電する必要があったんでしょうか?(あったんですか?)」」 「……………………………………ごめんなさい…………」 美琴にはこのジョーカーに対しての打開策が見当たらなかった。 というかそもそも、この世に無いのかもしれない。 助けを求めて、白井の方をちらっと見る美琴だが、 「ほほう…………………。あの類人猿め……お姉様だけでは飽きたらず、初春や佐天さんまでにも手を出すとは…………。 ……………………はっ!!ということは、次は私の番ですの?!…………これは今後警戒を最大まで引き上げる必要がありますわね……………いっそ、これを機会に消してしまうと言うのは…………………」 どこかアブナイ世界へとテレポートしている様だった。 よって、ライフラインは途絶えた。 恐る恐る前方を確認すると、4つの瞳が優しく、且つ鋭く自分を見ている。 しかも、何故だか金縛りに遭っているかの様にその場から動けない。 以上の事項を踏まえ、結論を弾き出すのにはそう時間は掛からなかったが、 「憲法にのっとり、黙秘権を行使し―――――――「「ダメです」」――――ですよね………」 誤算は、ここが最終兵器『日本国憲法――基本的人権の尊重』も意味をなさない空間であるという事だった。 さて、美琴は美琴で追い詰められているのだが、初春と佐天の方も若干疲れてきた。 何せ、30分以上ずっとにらめっこ状態なのだ。 これで精神が削り取られない訳がない。 当の美琴は口を閉ざしたままだし、これはもう諦めた方が得策なのではないかと、流石の初春と佐天も思う。 そう、その時だった。 幸も不幸も、美琴の携帯が鳴ってしまったのは。 「あれ?電話か…………………」 美琴が、一時的に解放された事で少しばかり安堵するものの、ディスプレイを見た瞬間にその表情は固まった。 なぜなら、着信相手が上条当麻であったりするからである。 「……………………………………………………………………………ふぇ?」 「「??」」 予想外の着信相手である。 美琴の方からは幾度となく連絡をしようと試みた相手ではあるが、あちらから連絡が来るのは非常に珍しい、というか無に等しい。 以前、上条から連絡が来た際には、彼はイギリスにいるわキーロックの解除方法を聞かれるわで、全くもって日常的な会話が出来なかったりしたのだが………。 そんな美琴は心の動揺を抑えつつ、携帯の通話ボタンを押した。 「も、もしもし?」 『………………声裏返ってるぞ、御坂?』 初手から失敗した様だった。 しかし、そんな事でへこたれるレベル5では無い。 「い、いいでしょそんなこと。早く用件言いなさいよ」 『?まあいいや、それで用件なんだが、御坂って明日暇だったりするか?』 「何だそんなこ………………………………………………………………は?」 『いや、一端覧祭の買い出しに上条さんは行く羽目になりまして………。 ちょっと御坂に付き合ってもらえないかと思った次第なんですよ…………』 「(ふぅ………落ち着け落ち着け………)ねえ、何で私じゃないといけないのよ?」 『野郎のセンスよりかは、お嬢様のセンスをお借りした方がよろしいと思ったんだが…………ダメか?』 「べっ別に私は構わないわよ!明日は予定も何にも一切ないから!!」 『ん、大丈夫なのか?それは有り難い限りですよ』 「それで、時間と場所はどうなってるの……………かな?」 『う~ん……時間は11時位で、場所はセブンスミストあたりが妥当か……… それでいいか、御坂?』 「そっそれでいいと思うわよ?というかそれにすること!いいわね!!」 『はいはい分かりましたよ、御坂センセー。じゃあ明日な』 「前みたいに遅れたら、承知しないわよ!!」 機械的な電子音が流れ通話が終わった事を示す携帯だが、美琴は携帯を持ったまま、えへへとにやけている。 まぁ当然と言えば当然かもしれないが。 因みに、 「「「………………………………………後で詳しく話を聞かせてもらおうっと(もらいますの)…………」」」 美琴の一連の動作に対して、白井も含めた3人が(本当に)温かい視線を送っている事を本人はまだ知らない。 というか、この状況ならば知り得た方がおかしい気がする。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Plus Minus